シニアからのはるめくせかい

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人生の黄昏に学ぶ、身を引く勇気と愛の本当の意味

「あの時、身を引いて本当に良かったのかしら」

窓の外を眺めながら、そんなことを考える日があります。若い頃の恋愛、結婚生活、そして人生の様々な場面で、私たちは「身を引く」という選択をしてきました。それは時に苦しく、時に後悔を伴うものでしたが、今振り返ると、その選択にこそ深い意味があったのだと気づきます。

60代、70代、80代になった今だからこそ、若い頃には理解できなかった「身を引く」ことの本当の意味が分かるのかもしれません。今日は、人生の先輩たちの体験談を交えながら、恋愛や人間関係における「身を引く」という選択について、一緒に考えてみたいと思います。

若き日の恋、そして身を引く決断

74歳になる清子さんは、50年以上前の恋愛を今でも鮮明に覚えています。

当時22歳だった清子さんには、大学時代から付き合っていた恋人がいました。卒業を控えた冬、彼は東京の大手企業に内定が決まり、清子さんは地元の学校で教師になることが決まっていました。

「彼は『一緒に東京に来てほしい』と言ってくれました。でも、私には病気の母がいて、地元を離れることができなかったんです」

清子さんの声には、50年経った今でも、その時の葛藤が滲んでいます。彼女は悩みに悩んだ末、自ら身を引く決断をしました。

「彼の将来を考えたら、私が足を引っ張ってはいけないと思ったんです。遠距離恋愛で彼を縛るよりも、彼を自由にしてあげたかった」

別れを切り出した時、彼は何度も引き止めてくれました。でも、清子さんの決意は固かったのです。その後、清子さんは地元で教師として働き、28歳の時に今の夫と出会い結婚しました。

「今の夫との生活は幸せです。でもね、たまに思うんです。あの時、もっと自分の気持ちに正直になっていたら、どうなっていたのかなって」

清子さんの目には、涙が浮かんでいました。身を引くという選択は、正解だったのか間違いだったのか、それは誰にも分かりません。でも、その選択があったからこそ、今の人生があるのです。

夫婦関係で学んだ、相手のための身の引き方

68歳の和夫さんは、結婚40年を迎えた今、妻との関係について語ってくれました。

「定年退職してから、妻との距離感が難しくなったんです。家に一日中いると、妻が息苦しそうにしていることに気づきました」

現役時代、和夫さんは仕事一筋でした。家のことはすべて妻に任せ、自分は外で働く。それが夫婦の役割分担だと思っていました。でも、定年後、毎日家にいるようになると、妻の表情が曇っていくのが分かりました。

「ある日、妻が友人とのランチから帰ってきた時、とても楽しそうだったんです。その笑顔を見て、私がいることで妻の自由を奪っているんだと気づきました」

和夫さんは、自分から趣味のサークルに入ることを決めました。週に3日は外出し、妻が一人の時間を持てるように配慮しました。

「身を引くというのは、相手から離れることだけじゃない。相手のために、適切な距離を取ることでもあるんです」

この選択は正解でした。妻との会話は以前より増え、二人の関係は良好になりました。和夫さんは、「40年経って、やっと夫婦の適切な距離が分かった」と笑います。

子どもの恋愛に口を出さない勇気

70歳の久美子さんは、娘の恋愛で「身を引く」ことの大切さを学びました。

久美子さんの娘は、30代半ばで年下の男性と付き合い始めました。久美子さんから見ると、その男性は頼りなく、娘の将来が心配でした。

「正直、反対したかったんです。でも、娘はもう大人。私が口を出すべきではないと思いました」

久美子さんは、自分の意見を飲み込み、娘の選択を尊重することにしました。心配で夜も眠れない日もありましたが、娘を信じることにしたのです。

「娘が結婚を決めた時、私は心から祝福しました。今、二人は幸せそうです。そして、あの時口を出さなくて良かったと思っています」

親として、子どもを心配するのは当然です。でも、子どもの人生は子どものもの。親が身を引くべき時があるのです。

「孫が生まれた時、娘が『お母さんがあの時、何も言わずに応援してくれたこと、感謝してる』と言ってくれました。その言葉が、何よりも嬉しかったです」

久美子さんの目には、喜びの涙が光っていました。

ここで少し面白い話、身を引きすぎた祖父の失敗

少し余談になりますが、私の祖父の話をさせてください。祖父は、とにかく遠慮深い人でした。「身を引く」ことを美徳と考え、常に一歩引いて生きていました。

ある日、祖父母の結婚50周年のお祝いを計画していた時のことです。親戚一同が集まり、何をプレゼントするか相談していました。誰かが「おじいちゃんに直接聞いてみたら?」と言ったので、聞いてみました。

すると祖父は「いやいや、私はいいから。お前たちの好きなようにしてくれ」と。これが祖父の口癖でした。結局、みんなで話し合って、温泉旅行をプレゼントすることにしました。

当日、祖父は嬉しそうでしたが、祖母がぽつりと言いました。「お父さん、本当は北海道に行きたかったんじゃない?」。祖父は「え?なんでそれを...」と驚いた顔をしました。

実は祖父、数ヶ月前から北海道旅行のパンフレットを集めていたのを、祖母は知っていたのです。でも、「身を引く」ことが染み付いていた祖父は、自分の希望を言えなかったのです。

結局、翌年に北海道旅行を企画し直しました。この出来事から、家族みんなが「遠慮しすぎも良くない」と学んだのです。身を引くことは大切ですが、自分の気持ちを伝えることも同じくらい大切なのです。

配偶者を亡くした後の恋愛と身の引き方

72歳の正夫さんは、5年前に妻を亡くしました。40年連れ添った妻との別れは、言葉にできないほど辛いものでした。

妻が亡くなって3年が経った頃、地域のボランティア活動で知り合った女性と親しくなりました。同じく配偶者を亡くした方で、二人は似た境遇から話が弾みました。

「彼女といると、心が軽くなるんです。でも、亡くなった妻に申し訳ない気持ちもあって...」

正夫さんは、葛藤していました。新しい恋愛に進むべきか、亡き妻への思いを大切にして身を引くべきか。子どもたちの目も気になりました。

ある日、正夫さんは子どもたちに正直に話しました。すると、長男が言いました。

「お父さん、お母さんはお父さんが幸せになることを望んでいたと思うよ。お父さんが一人で寂しそうにしているのを見る方が、お母さんは悲しむと思う」

この言葉に、正夫さんの心は救われました。でも、すぐに新しい恋愛に進むことはできませんでした。

「彼女にも、正直に話しました。『あなたのことは大切だけど、まだ心の整理がついていない』と。彼女は『焦らなくていいのよ』と言ってくれました」

正夫さんは、今も彼女と友人として付き合っています。恋愛に発展させるかどうかは、まだ決めていません。でも、焦らず、自分の気持ちに正直になることが大切だと学びました。

「身を引くというのは、逃げることじゃない。自分の心と向き合って、適切なタイミングを待つことでもあるんです」

正夫さんの言葉には、深い重みがありました。

孫の恋愛相談で気づいた、世代を超えた共通の悩み

67歳の明美さんは、大学生の孫娘から恋愛相談を受けました。

孫娘は、好きな人がいるけれど、その人には付き合っている人がいる。「どうしたらいいかな」と相談してきたのです。

明美さんは、自分の若い頃を思い出しました。実は明美さんも、若い頃に同じような経験をしていたのです。

「私はね、その時、身を引いたの。好きな人の幸せを考えたら、横恋慕するのは違うと思って」

孫娘は、真剣な表情で聞いていました。明美さんは続けました。

「でもね、もし今の私が若い頃に戻れるなら、もっと自分の気持ちに正直になっていたかもしれない。身を引くことが必ずしも正解とは限らないの」

明美さんは、孫娘に自分の経験を話しながら、一つの大切なことを伝えました。

「大切なのは、誰かを傷つけないこと。そして、自分の気持ちにも嘘をつかないこと。その二つのバランスを取るのが、とても難しいのよ」

孫娘は、祖母の言葉を噛み締めるように聞いていました。後日、孫娘から「おばあちゃんのアドバイス、すごく役に立った。自分の気持ちを整理できた」とメッセージが届きました。

明美さんは、50年前の自分と向き合い、そして孫の未来を思いながら、「身を引く」ことの意味を改めて考えたのです。

人生の黄昏における、最後の恋

76歳の隆さんは、3年前に妻を亡くし、1年前にデイサービスで知り合った女性と親しくなりました。

「最初は、こんな年齢で恋をするなんて馬鹿げていると思いました。でも、彼女といると、心が若返るんです」

二人は週に一度、一緒に散歩をするようになりました。お互いの人生を語り合い、笑い合う時間は、隆さんにとってかけがえのないものでした。

でも、隆さんには一つの不安がありました。自分の健康状態です。持病があり、いつ体調が悪化するか分かりません。

「彼女に迷惑をかけたくない。だから、これ以上深い関係になるのは避けるべきかと思いました」

隆さんは、彼女との距離を少し置くことを考えました。でも、ある日、彼女から言われた言葉に、隆さんの考えは変わりました。

「私たちに、残された時間がどれくらいあるか分からない。だからこそ、今を大切にしたいの。あなたが私に気を使って距離を置くなら、それは私の楽しみを奪うことになるわ」

この言葉に、隆さんは涙が止まりませんでした。身を引くことが思いやりだと思っていたけれど、時には一緒にいることの方が、相手を幸せにすることもあるのです。

「今、私たちは恋人という関係ではありません。でも、大切な友人以上の存在です。毎日が楽しくて、生きる喜びを感じています」

隆さんの表情は、若々しく輝いていました。

身を引くことと、自分を大切にすることの間で

65歳の悦子さんは、長年連れ添った夫との関係で、「身を引く」ことに疲れていました。

夫は、自分の趣味や友人との時間を優先し、悦子さんとの時間をあまり大切にしませんでした。悦子さんは、ずっと我慢してきました。「夫の好きなようにさせてあげよう」と身を引いてきたのです。

でも、60代になって、ふと思いました。「私の人生は、これでいいのかしら」と。

「私は、夫のために身を引きすぎていました。でも、それは本当に夫のためだったのか、それとも自分が嫌われたくなかっただけなのか、分からなくなったんです」

悦子さんは、初めて夫に自分の気持ちを伝えました。「もっと二人の時間を大切にしたい」と。

夫は最初、驚いた様子でした。でも、悦子さんの真剣な表情を見て、自分の行動を見直すようになりました。

「今、夫は週に一度、私と一緒に散歩に行ってくれます。小さな変化ですが、私にとっては大きな一歩です」

悦子さんは、身を引くことと、自分の気持ちを伝えることのバランスを、60代になってやっと見つけたのです。

長い人生で学んだ、身を引くタイミング

人生80年、90年の時代。長い人生の中で、私たちは何度も「身を引く」選択をしてきました。

若い頃の恋愛で、相手のために身を引いた経験。結婚生活で、配偶者のために自分を抑えてきた日々。子育てで、子どもの自立のために一歩下がった時。そして今、孫や周りの人たちのために、どう関わるべきか考える毎日。

でも、年齢を重ねた今だからこそ言えることがあります。身を引くことは大切だけど、自分を犠牲にしすぎてはいけないということです。

71歳の幸子さんは、こう語ります。

「若い頃は、身を引くことが美徳だと思っていました。でも、今思うと、もっと自分の気持ちを大切にすれば良かったと思うこともあります」

幸子さんは、娘の結婚相手が気に入らず、反対したかったけれど我慢しました。でも、後から娘に「あの時、お母さんはどう思ってた?」と聞かれ、正直に話すと、娘は「言ってくれれば良かったのに」と言いました。

「身を引くことと、自分の意見を言わないことは違うんですね。言った上で、最終的には相手の選択を尊重する。それが本当の身の引き方なのかもしれません」

今だから伝えたい、若い世代へのメッセージ

身を引くという選択は、簡単ではありません。自分の気持ちと相手の幸せの間で、揺れ動きます。正解なんてないのかもしれません。

でも、長い人生を生きてきた私たちだからこそ、伝えられることがあります。

身を引くことは、愛の形の一つです。でも、それだけが愛ではありません。時には、一緒にいること、支え合うことが、もっと大きな愛になることもあります。

大切なのは、相手のことを本当に思っているか。そして、自分の気持ちにも正直であるか。その両方のバランスを取りながら、一つひとつの選択をしていくことです。