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「当たりが強い」という愛情表現──長年連れ添った夫婦だからこそわかる、不器用な愛のかたち

「またそんな言い方して」。食卓で夫がそうつぶやいたとき、妻は少しバツの悪い顔をしました。確かに、さっきの言葉はちょっときつかったかもしれない。でも、言いたいことは山ほどあるし、遠慮していたら何も伝わらない。結婚して何十年、今さら取り繕う必要もないでしょう、と心の中で思う。そんな日常の一コマ、皆さんの家庭にもありませんか。

今日は、恋愛や夫婦関係における「当たりが強い」という現象について、少し深く考えてみたいと思います。若い世代の恋愛だけでなく、長年連れ添ってきた私たちシニア世代にこそ、実は深く関係するテーマなんです。なぜ私たちは、一番大切な人に対して、時として厳しい態度を取ってしまうのでしょうか。その背景には、どんな心理が隠れているのでしょうか。

「当たりが強い」とは何か──厳しさの中に隠れた本当の気持ち

「当たりが強い」という言葉、最近よく耳にするようになりました。簡単に言えば、特定の相手に対して厳しい態度や強めの言葉遣いをすることです。でも、この「当たりが強い」という現象、実はとても複雑で、単なる意地悪や嫌がらせとは全く違うものなんです。

私たちシニア世代は、長い人生の中で様々な人間関係を経験してきました。職場の同僚、ご近所さん、子供たちの学校の保護者仲間、そして何より、長年連れ添ってきた配偶者。その中で気づくことがあります。本当に大切な人、心から信頼している人にこそ、私たちは厳しく接してしまう傾向があるということです。

たとえば、夫が約束の時間に遅れてきたとき。友人なら「大丈夫よ、気にしないで」と笑顔で迎えるのに、夫に対しては「何時だと思ってるの」とつい厳しい口調になってしまう。あるいは、妻が料理の味付けを間違えたとき。他人なら「美味しいですよ」と言うところを、夫は「いつもと違うね」「ちょっと濃いんじゃない?」と指摘してしまう。こうした場面、思い当たる節はありませんか。

長年連れ添った夫婦だからこそ──遠慮のない関係が生む厳しさ

結婚して五年、十年、二十年、そしてそれ以上。時間が経てば経つほど、夫婦の関係は変化していきます。最初の頃は相手に気を遣い、できるだけ良いところを見せようと努力していました。でも時間が経つにつれ、良くも悪くも、遠慮がなくなっていく。これは決して悪いことではありません。むしろ、お互いに素の自分を見せられる関係になったという証なんです。

でも、この「遠慮のなさ」が時として「当たりの強さ」として現れることがあります。他人には決して言わないような厳しい言葉を、配偶者には平気で口にしてしまう。なぜでしょうか。それは、相手が絶対に自分から離れていかないという安心感があるからです。どんなに厳しいことを言っても、どんなに強く当たっても、この人は自分のそばにいてくれる。そんな信頼関係があるからこそ、私たちは素直な感情を出せるんです。

ある70代の女性の話を聞いたことがあります。彼女は結婚して45年になるそうですが、今でも夫に対して厳しい態度を取ることがあると言います。「最初の頃は、夫に嫌われたくなくて、いつも笑顔でいようと頑張っていました。でも今は違います。腹が立ったら怒るし、納得いかないことがあれば言います。それでも夫は私のそばにいてくれる。それがわかっているから、遠慮なく本音を言えるんです」。彼女の目には、長年の信頼関係から生まれる安心感が宿っていました。

愛情の裏返し──期待しているからこそ厳しくなる心理

「当たりが強い」という態度の背景には、実は深い愛情が隠れています。これは一見矛盾しているように思えるかもしれませんが、心理学的にも説明できる現象なんです。

私たちは、本当に大切に思っている人に対してこそ、高い期待を持ちます。配偶者なら「もっとこうあってほしい」「こういうところを直してほしい」という思いがある。それは相手をより良くしたい、二人の関係をより良くしたいという願いから来るものです。でも、その期待が裏切られたとき、私たちは失望し、怒り、厳しい言葉を投げかけてしまう。

逆に、全く関心のない人に対しては、期待もしないし、厳しくもなりません。相手がどんな行動を取ろうと「まあ、そういう人だから」で終わってしまう。この違いこそが、「当たりが強い」という態度が愛情の裏返しである証拠なんです。

60代の男性が、こんなことを話していました。「妻には厳しいことを言ってしまうことがある。でもそれは、妻にもっと幸せになってほしいからなんだ。健康に気をつけてほしい、もっと楽しく過ごしてほしい、そういう思いが強すぎて、つい口うるさくなってしまう。本当は心配しているだけなんだけど、それがうまく伝えられない」。彼の声には、不器用ながらも深い愛情が感じられました。

不器用な愛情表現──素直になれない私たちの世代

私たちシニア世代は、感情表現が苦手な人が多いかもしれません。特に、愛情や感謝といったポジティブな感情を言葉にすることに、照れくささを感じる人も少なくないでしょう。「ありがとう」「愛してるよ」なんて言葉、若い頃から言い慣れていないと、今更言えない。そんな思いを抱えている方も多いのではないでしょうか。

だからこそ、私たちの愛情表現は不器用になりがちです。本当は「心配だから」と優しく伝えたいのに、「だからあれほど言ったじゃないか」と叱責する形になってしまう。本当は「大好きだから」と伝えたいのに、「お前は本当にしょうがないな」という言葉になってしまう。この不器用さが、「当たりが強い」という形で現れることがあるんです。

昭和の時代、私たちの親の世代はもっと不器用でした。父親が母親に「ありがとう」なんて言っているのを聞いたことがない、という人も多いでしょう。でも、父親は父親なりの方法で母親を愛していた。朝早く起きて仕事に行き、家族のために働き、時には厳しい言葉で家族を導こうとした。それも愛情表現の一つだったんです。

ここで少し余談になりますが、面白いことに、最近の若い夫婦を見ていると、私たちの世代とは全く違う愛情表現をしていますね。「ありがとう」「愛してる」と平気で口にし、人前でも手をつないで歩く。最初は「恥ずかしくないのかしら」と思いましたが、よく考えると、素直に感情を表現できるというのは素晴らしいことです。もしかしたら、私たちの世代が抱えてきた「不器用さ」は、時代や教育の影響だったのかもしれません。でも、だからといって私たちの愛情が彼らより劣っているわけではない。ただ表現方法が違うだけなんです。

信頼と安心感──特別な相手だからこそ見せられる本当の自分

「当たりが強い」という態度のもう一つの側面は、相手への絶対的な信頼と安心感です。私たちは、本当に信頼している相手にしか、本当の自分を見せられません。弱い部分も、醜い部分も、感情的になってしまう部分も、すべてをさらけ出せる相手は、人生の中でほんの数人です。多くの場合、それは配偶者であり、長年連れ添ったパートナーです。

他人の前では、私たちは「いい人」でいようとします。社会的な顔、礼儀正しい顔、落ち着いた大人の顔。でも家に帰れば、その仮面を脱ぐことができる。疲れたときは疲れた顔を見せ、イライラしているときはイライラした態度を取る。これができるのは、相手が自分を受け入れてくれると信じているからです。

75歳の女性が、こんなことを話していました。「夫の前では、私は本当の自分でいられます。機嫌が悪いときは機嫌が悪い顔をするし、夫に不満があるときは文句を言います。でも、それができるのは夫が私を見捨てないとわかっているから。友達の前では、こんなにわがままは言えません。夫は特別な存在なんです」。彼女の言葉には、長年の信頼関係から生まれる安心感がありました。

シニア世代の恋愛と「当たりが強い」──再婚や新しい出会いでの変化

ここまでは主に長年連れ添った夫婦の話をしてきましたが、最近は熟年離婚や配偶者との死別を経て、新しいパートナーと出会うシニアの方も増えています。そうした新しい恋愛においても、「当たりが強い」という現象は起こるのでしょうか。

実は、新しいパートナーとの関係では、最初のうちは「当たりが強い」ということは少ないものです。なぜなら、まだ相手との信頼関係が十分に築けていないからです。相手に嫌われたくない、良い印象を持ってもらいたいという思いが強く、どうしても遠慮がちになります。

でも、関係が深まるにつれて、徐々に本当の自分を見せられるようになり、時には厳しい態度を取ることも出てきます。これは、関係が深まっている証拠でもあるんです。相手を信頼できるようになり、この人なら本当の自分を受け入れてくれると感じられるようになった証です。

65歳で再婚した男性が、こんなことを語っていました。「新しい妻とは、最初の一年くらいは本当に気を遣いました。何か言いたいことがあっても我慢して、いつも笑顔でいようと頑張っていた。でも、それは疲れるんですよね。ある日、つい本音を言ってしまって、『あ、しまった』と思ったんですが、妻は笑って受け入れてくれました。それからは少しずつ素の自分を出せるようになって、今では言いたいことを言い合える関係になりました。それが一番楽で、一番幸せです」。彼の表情には、新しい人生への喜びと安心感が浮かんでいました。

二人きりの時間──外と内での態度の違い

興味深いのは、「当たりが強い」という態度が、特に二人きりの時に強く出ることです。人前では優しく穏やかな夫婦が、家に帰ると厳しい言葉を交わし合う。こんな現象を不思議に思ったことはありませんか。

これは、外では「夫婦としての社会的な顔」を保とうとするからです。他人の前で配偶者を厳しく叱責したり、強く当たったりすることは、社会的に好ましくないと私たちは知っています。だから外では、お互いに協力し、支え合う良い夫婦を演じる。でも、家という密室に戻れば、遠慮なく本音をぶつけ合うことができる。

これも、ある意味で健全な関係だと言えます。いつでもどこでも「いい夫婦」でいることは、実は大きなストレスになります。時には本音をぶつけ合い、感情をぶつけ合う場所と時間が必要です。そしてその場所が「家庭」であり、相手が「配偶者」なんです。

ただし、これには注意も必要です。二人きりだからといって、何を言ってもいい、どんな態度を取ってもいいというわけではありません。相手を傷つける言葉、人格を否定するような言葉は、たとえ二人きりであっても避けるべきです。「当たりが強い」と「暴言」は違います。この線引きを忘れてはいけません。

お互いの本心を理解する──「当たりが強い」の奥にある愛を見つける

ここまで読んで、「そうか、自分が配偶者に厳しくしてしまうのは、愛情の裏返しだったんだ」と気づいた方もいるかもしれません。あるいは、「配偶者が自分に厳しいのは、実は期待や信頼の表れだったんだ」と理解できた方もいるでしょう。

でも、ここで大切なのは、この「当たりが強い」という態度が相手にちゃんと伝わっているかどうかです。あなたがどんなに愛情を込めて厳しくしていても、相手がそれを理解していなければ、ただ傷つけているだけになってしまいます。

だからこそ、時には言葉で伝えることが必要です。「さっきは厳しいことを言ったけど、それはあなたが心配だからなんだ」「きつい言い方をしてごめん。でも、それはあなたに期待しているからなんだよ」。こうした一言があるだけで、相手の受け取り方は全く変わります。

70代の夫婦の話を聞きました。妻は夫に対して、長年厳しい態度を取り続けてきたそうです。夫の健康を心配して食事を制限し、お酒を控えるよう口うるさく言い、外出時には細かく注意する。夫は時々「うるさいな」と思いながらも、妻の言うことを聞いてきました。でもある日、妻が「あなたに長生きしてほしいから、口うるさく言ってるのよ。一人になるのは寂しいから」と涙ながらに言った時、夫は初めて妻の本心を理解したそうです。「あれから、妻の小言を聞くのが嫌じゃなくなった。むしろ愛情を感じるようになった」と、夫は笑顔で語っていました。

年を重ねてからの気づき──今だからわかる関係の深さ

若い頃は、「当たりが強い」という態度を単純に「性格が悪い」「愛情がない」と捉えていたかもしれません。でも、長い人生を生きてきた今、私たちはその奥にある複雑な感情を理解できるようになりました。人間関係の深さ、信頼関係の大切さ、そして不器用な愛情表現の意味を、経験を通して学んできたんです。

そして今、改めて自分と配偶者の関係を見つめ直すと、様々なことに気づきます。あの時の厳しい言葉の裏には心配があった。あの時の強い態度の背景には期待があった。お互いに不器用ながらも、精一杯愛し合ってきたんだと。

人生の後半戦に入った今だからこそ、これらのことを理解し、お互いをより深く受け入れられるようになります。もう若くはないからこそ、残された時間を大切に過ごしたい。そう思うと、相手の「当たりが強い」態度も、愛おしく感じられるかもしれません。

これからの関係をより良くするために──穏やかな老後を迎えるヒント

では、これからの夫婦関係、パートナーとの関係を、より良いものにするために、私たちにできることは何でしょうか。

まず一つ目は、相手の「当たりが強い」態度の背景を理解しようとすることです。表面的な言葉や態度だけでなく、その奥にある本当の気持ちを想像してみる。相手は何を心配しているのか、何を期待しているのか、どんな思いからその言葉を発しているのか。そう考えると、受け取り方が変わってきます。

二つ目は、自分の気持ちを言葉で伝える努力をすることです。不器用でも構いません。完璧な言葉でなくても構いません。「心配だから」「大切だから」「長生きしてほしいから」。そうした本音を、時には言葉にして伝えましょう。相手は、あなたが思っている以上に、その言葉を待っているかもしれません。

三つ目は、感謝の気持ちを忘れないことです。長年連れ添ってきた配偶者は、あなたの人生の最大の理解者であり、支援者です。時には厳しく、時には優しく、あなたをそばで見守ってきてくれた。その存在に、改めて感謝する時間を持ちましょう。

そして四つ目は、時には笑い飛ばす余裕を持つことです。お互いに「当たりが強い」言葉を交わしても、最後には「まあ、いつものことだ」と笑い合える関係が理想です。深刻になりすぎず、ユーモアを持って接すること。それが、長く幸せな関係を続ける秘訣かもしれません。