長い人生を歩んでこられた皆さんだからこそ、お伝えしたいことがあります。定年を迎え、子育てが一段落し、これまでとは違う自由な時間が手に入る年齢になると、人生に新しい刺激や変化を求めたくなる気持ち、よくわかります。同窓会で昔の同級生と再会したり、趣味のサークルで新しい出会いがあったり、SNSで久しぶりに旧友とつながったり。そんな中で、ふと心が揺れ動く瞬間があるかもしれません。
でも、ちょっと立ち止まって考えていただきたいのです。これまで何十年もかけて築いてきたもの、守ってきたものの重みを。今日は、人生の後半戦だからこそ大切にすべきことについて、一緒に考えていきたいと思います。
人生の節目で心が揺れるとき
60代、70代になると、人生の大きな節目を迎える方が多くなります。定年退職、子どもの独立、親の介護の終了。これまで忙しく過ごしてきた日々から解放され、ふと「自分の人生ってこれでよかったのかな」と考える時間が増えるのです。
特に男性の場合、会社人間として働き続けてきた方は、退職後に自分のアイデンティティを見失いがちです。「部長」や「課長」という肩書きがなくなり、ただの「おじいちゃん」になることへの戸惑い。妻とは長年、すれ違いの生活が続いていた。会話も減り、同じ屋根の下にいても心は離れているような感覚。そんな時、同窓会で会った昔の恋人が、まるで昔のままの笑顔で話しかけてくれたら…。心がときめいてしまうのは、ある意味、自然なことかもしれません。
女性の場合も同じです。夫は定年後も趣味に没頭して家にいても会話がない。子どもたちはそれぞれの家庭で忙しく、孫に会えるのも月に一度あるかないか。「私、この何十年、家族のために尽くしてきたのに、これからの人生は何なの?」という虚しさや寂しさが募ります。そんな時、カルチャーセンターで出会った優しい男性が自分の話を熱心に聞いてくれたら、久しぶりに「女性として大切にされている」という感覚が蘇るかもしれません。
心が揺れること自体は、悪いことではありません。人間らしい感情です。でも、その揺れに従って行動を起こす前に、一度深呼吸してほしいのです。
ある65歳の女性の後悔
ここで、一人の女性の話をさせてください。彼女は当時60歳で、夫とは40年近く連れ添っていました。夫は真面目な会社員で、家族を大切にしてくれていましたが、言葉数が少なく、感謝の言葉もほとんど口にしない人でした。彼女は「私は家政婦じゃない」という思いを長年抱えていました。
そんな時、高校の同窓会で初恋の人と再会したのです。彼は独身で、昔と変わらず紳士的で、彼女の話を目を輝かせて聞いてくれました。「君のことは今でも忘れられなかった」という言葉に、彼女の心は一気に高校生の頃に戻ったような気持ちになりました。
最初は食事だけ、と思っていました。でも、月に一度が週に一度になり、やがて旅行にも行くようになりました。夫には「友達と温泉に行く」と嘘をつきました。罪悪感はありましたが、「私だって人生を楽しむ権利がある」と自分に言い聞かせていました。
転機は、彼女の夫が急に体調を崩したことでした。実は夫は数年前から糖尿病を患っており、彼女が知らない間に病状が悪化していたのです。入院した夫のベッドサイドで、看護師さんから「奥様のことをいつも心配されていましたよ。『あいつは俺がいなくなったらどうするんだろう』って」と聞かされた時、彼女は初めて夫の本当の気持ちを知りました。
不器用だけど、ずっと自分を思ってくれていた夫。その夫を裏切っていた自分。病室で夫の手を握りながら、彼女は涙が止まりませんでした。幸い夫は回復しましたが、彼女は初恋の人との関係を終わらせました。今でも「あの時間は何だったんだろう」と自問することがあるそうです。
夫には結局、すべてを打ち明けることはできませんでした。でも、それからは夫との時間を大切にするようになり、二人で散歩に出かけたり、一緒に料理を作ったり、少しずつコミュニケーションを増やしています。「あと何年一緒にいられるかわからないから、一日一日を大切にしたい」と彼女は言います。目には深い後悔の色が浮かんでいましたが、同時に、今ある幸せを噛みしめているようにも見えました。
シニアだからこそ大きい代償
若い頃とは違い、私たちシニア世代には、失うものがあまりにも大きいのです。
まず、経済的なダメージです。若い頃なら再就職してやり直すこともできますが、60代、70代で離婚となれば、年金の分割、財産分与、場合によっては慰謝料と、老後の生活設計が完全に崩れます。貯めてきた老後資金が一気に減り、これからの人生を経済的な不安と共に過ごすことになります。
次に、家族との関係です。子どもたちはもう成人していますが、親の不倫や離婚は、何歳になった子どもにとってもショックです。「尊敬していた親が…」という失望感は深く、親子関係に修復不可能な亀裂が入ることもあります。楽しみにしていた孫との時間も奪われるかもしれません。孫に「おじいちゃん(おばあちゃん)には会いたくない」と言われる痛みは、想像を絶するものです。
そして、健康への影響も無視できません。罪悪感、不安、ストレスは、高血圧や不眠、うつ症状を引き起こします。この年齢での精神的ダメージからの回復は、若い頃よりも時間がかかります。「もう人生やり直せない」という絶望感が、心身の健康を蝕んでいくのです。
地域社会での信用も失います。長年住んできた町で築いてきた人間関係、近所付き合い、趣味の仲間。噂はあっという間に広がり、居場所がなくなることもあります。引っ越しを余儀なくされる方もいらっしゃいます。
もう一つの体験談
ここで、もう一つの話をさせてください。43歳の男性の話です。妻とは20年以上連れ添い、子どもも二人いる普通のサラリーマンでした。でも、定年が見えてきた頃、急に焦りを感じ始めたのです。「このまま何もなく人生が終わっていいのか」と。
会社のゴルフサークルで知り合った年下の女性と親しくなり、関係を持ちました。最初は「大人の付き合いだから」と割り切っていたつもりでしたが、相手は本気になり、「奥さんと別れて」と迫ってくるようになりました。
断りきれずにずるずると続けているうちに、妻が不審に思い調査を依頼しました。証拠写真を突きつけられた時、彼の人生は一変しました。離婚、慰謝料480万円、そして何より、娘と息子からの絶縁宣言。「もうお父さんの顔も見たくない」という娘の言葉が、今でも耳に残っているそうです。
仕事も手につかなくなり、うつ状態で長期休職。結局、女性とも別れ、誰も幸せになれませんでした。今は一人暮らしで、息子の結婚式にも呼ばれず、生まれた孫の顔も写真でしか見たことがありません。「一時の快楽で、一生の幸せを失った」と、彼は静かに語ります。
声には深い後悔と、消えない罪悪感が滲んでいました。やり直したくても、時計の針は戻せません。失ったものはあまりにも大きく、取り戻すことは不可能なのです。
ちょっと余談ですが
ここで少し余談を。先日、あるシニアの集まりで興味深い話を聞きました。70代の男性が「昭和の時代は、ちょっとした浮気なんて『男の甲斐性』なんて言われてたもんだ」と笑いながら話していたのです。確かに、私たちの若い頃は、そういう風潮もあったかもしれません。
でも、今は時代が違います。SNSで簡単に証拠が残る時代、探偵アプリで位置情報がバレる時代、何より、女性の権利意識が高まり、「浮気は甲斐性」なんて通用しない時代です。それに、私たちはもう若くありません。昭和の価値観を引きずって、令和の時代に「昔はこうだった」と言い訳しても、失ったものは戻ってきません。
その男性も、「まあ、今の時代は怖くてそんなことできないけどね」と苦笑いしていました。時代が変われば、許されることも変わる。私たちシニアこそ、そのことを理解する必要があるのかもしれません。
心の隙間を埋める本当の方法
では、パートナーとの関係がマンネリ化し、心に隙間ができてしまったら、どうすればいいのでしょうか。
まず、パートナーとの対話を見直してみてください。何十年も一緒にいると、「言わなくてもわかるだろう」と思いがちですが、実は相手の本当の気持ちを知らないことが多いのです。改まって「ありがとう」「ごめんね」「好きだよ」と言葉にするのは恥ずかしいかもしれませんが、その一言が関係を変えることもあります。
一緒に新しいことを始めるのもいいでしょう。ウォーキング、旅行、料理教室、ダンス。二人で共通の趣味を持つと、会話も増えますし、一緒に何かを楽しむ喜びを再発見できます。
また、自分自身の内面を見つめ直すことも大切です。孤独感や虚しさの原因は、本当にパートナーとの関係だけでしょうか。自分の人生の目的や生きがいが見えなくなっているのかもしれません。ボランティア活動、地域の活動、新しい学び。外に刺激を求めるのではなく、自分の内面を豊かにすることで、心の隙間は埋まっていきます。
友人関係も大切にしてください。同性の友人と本音で語り合える時間は、心の栄養になります。配偶者以外の異性に癒しを求める前に、同性の友人との絆を深めてみてはどうでしょうか。
もし、本当にパートナーとの関係修復が不可能だと感じるなら、正直に向き合って話し合うことも必要です。不倫や浮気という裏切りの形ではなく、正面から「今の関係をどうしたいのか」を話し合う。それが大人の、そして長年連れ添った者同士の誠実さではないでしょうか。