「今さらお金の話なんて...」と思われるかもしれませんね。でも、定年を迎えて夫婦二人の時間が増えた方、パートナーを亡くして新しい出会いを考えている方、あるいは熟年離婚後に新たな人生を歩み始めた方。そんなシニア世代の皆さんにこそ、お金の話は大切なんです。
人生の後半戦を共に歩むパートナーとの関係において、「お金の使い方」「費用の分担」は、若い頃とは違った意味を持ってきます。年金生活の中で、お互いが気持ちよく過ごすためには、どんな工夫ができるのか。今日はそんなお話をしていきたいと思います。
シニア世代だからこそのお金の悩み
まず、私たちシニア世代が抱えるお金の状況は、若い世代とは大きく異なります。
現役時代のように毎月決まった給料が入ってくるわけではなく、年金が主な収入源。子どもたちは独立していても、時には孫への援助や親の介護費用など、予期せぬ出費もあります。また、自分自身の医療費も気になるお年頃。
そんな中で、新しいパートナーができた時、あるいは長年連れ添った配偶者との関係を見直す時、お金の話は避けて通れない問題なんですよね。
ある女性の話を聞いてください。彼女は68歳で、三年前に夫を亡くしました。寂しさを紛らわすために参加した地域のサークルで、同じく配偶者を亡くした男性と知り合ったそうです。
二人は意気投合し、月に何度か一緒に食事に行ったり、日帰り旅行に出かけたりするようになりました。楽しい時間でした。でも、ある時、ふと気づいたんです。いつも彼が支払いをしていることに。
彼女は心の中で葛藤しました。「私も年金をもらっているのに、いつも出してもらうのは申し訳ない」「でも、こちらから『割り勘にしましょう』と言うのは失礼かしら」「そもそも、私たちの関係って何?恋人?友達?」
結局、彼女は勇気を出して話をしました。「いつもごちそうになって申し訳ないわ。私も出させていただけないかしら」と。すると彼は、ほっとした表情で答えたそうです。
「実はね、僕も悩んでいたんだ。毎回出すのは、君を見下しているみたいで失礼かなって。でも、君から言い出すのも気まずいだろうと思って。正直に話してくれて、ありがとう」
このエピソードから分かるのは、シニア世代だからこそ、お金の話をオープンにすることの大切さです。若い頃なら「男性が払うもの」という暗黙のルールがあったかもしれません。でも今は、お互いに年金生活者。対等な立場で、率直に話し合える関係が理想なんです。
シニアカップルに合った費用分担の方法
では、具体的にどんな分担方法があるのか、シニア世代ならではの視点で見ていきましょう。
まず一つ目は、「完全折半」です。
これは食事代でも旅行代でも、きっちり半分ずつ負担する方法。若い頃は「細かい」と思われたかもしれませんが、年金生活では合理的な選択肢です。
ある70代のカップルは、再婚して一緒に暮らし始める時、お互いの年金額を正直に話し合ったそうです。奥さんの年金は月12万円、ご主人は月18万円。二人とも現役時代ほどの収入はありません。
だから、生活費は全て折半にしました。家賃、光熱費、食費。スマートフォンのアプリで、誰が何を買ったかを記録し、月末に精算する。最初は面倒かなと思ったけれど、慣れてしまえば何でもないそうです。
「これが一番気楽なのよ」と奥さんは言います。「お互いに自分の年金で自分のものを買えるし、相手に遠慮する必要もない。だからこそ、たまに相手のためにプレゼントを買った時の喜びも大きいのよ」
二つ目は、「交互払い」です。
これは、食事や外出の度に、交代で全額を払う方法。「今日は私が出すから、次はあなたね」というシンプルなルールです。
75歳の男性と68歳の女性のカップルは、この方法を採用しています。二人とも独身を貫いてきた人同士で、お互いの自由を尊重する関係。週に一度、一緒に食事をするのが楽しみです。
「僕が払った次の週は彼女が払う。金額が多少違っても気にしない。長い目で見れば同じだし、何より『今日は私の番よ』って言いながら財布を出す彼女の笑顔が好きなんだ」
男性のこの言葉に、彼女への深い愛情が感じられますよね。金額の多寡ではなく、お互いが対等に、そして喜んで相手のために出せる関係。それが理想です。
三つ目は、「カテゴリー別の分担」です。
これは、何にいくら払うかを事前に決めておく方法。特に、一緒に暮らしている、あるいは頻繁に会うカップルに向いています。
ある再婚夫婦の例を紹介しましょう。ご主人は72歳、奥さんは65歳。ご主人は厚生年金があるので月20万円、奥さんは国民年金で月7万円ほど。収入に差があります。
だから、二人で話し合って役割を決めました。家賃と光熱費はご主人、食費と日用品は奥さん。旅行に行く時は、交通費と宿泊費をご主人、お土産や入場料を奥さんが出す。
「収入に差があるから、それに応じた負担をするのが公平だと思った」とご主人。「でも、私も食費を出すことで、この家庭に貢献している実感があるの」と奥さん。
お互いの役割が明確だからこそ、感謝の気持ちも生まれやすい。「今日のご飯、美味しかったよ。ありがとう」「こんな素敵な旅行、ありがとう」。そんな言葉が自然に出てくる関係なんです。
四つ目は、「男性が少し多めに負担」する方法です。
これは伝統的かもしれませんが、シニア世代には馴染みやすい方法でもあります。ただし、昔のように「男性が全て出す」のではなく、「少し多めに」というのがポイント。
例えば、食事代が6,800円だったら、男性が4,000円、女性が3,000円。端数は男性が負担して、でも女性もしっかり自分の分は出す。
ある男性はこう言います。「僕は昭和の人間だから、やっぱり女性に全部出させるのは気が引ける。でも、彼女も『私も払うわ』って言ってくれるから、じゃあ僕が少し多めにって形に落ち着いた。彼女の気持ちも尊重できるし、僕の面子も立つ」
ここで少し、面白い話を挟ませてください。私の知人の80代の男性が、若い頃の話をしてくれました。昭和30年代、彼が20代の頃、デートと言えば男性が全額出すのが当たり前だったそうです。でも、ある時、デート相手の女性が「私も少し出させて」と言ったことがあったとか。当時はそれが珍しくて、周りの友人に話したら「そんな女性と付き合うのか」と言われたそうです。時代は変わりましたよね。今では「女性も払う」のが当たり前。むしろ、お互いが対等に負担することが、健全な関係の証なんです。さて、話を戻しましょう。
年金生活だからこそ大切にしたいこと
ここまで、いくつかの費用分担の方法を紹介してきました。でも、どの方法を選ぶかよりも大切なことがあります。それは、「話し合うこと」です。
若い頃は、お金の話をするのは野暮だと思っていたかもしれません。でもシニア世代の今、限られた年金の中でやりくりしている私たち。お金の話は、決して恥ずかしいことでも失礼なことでもありません。
むしろ、オープンに話し合えることが、信頼関係の証なんです。
ある女性は、こんな風に話してくれました。彼女は70歳で、5年前に離婚。子どもたちは独立していて、一人暮らしでした。寂しさもあり、婚活パーティーに参加したところ、素敵な男性と出会ったそうです。
何度かデートを重ねる中で、彼女は思い切ってお金の話を切り出しました。「私の年金は月8万円ほどなの。贅沢はできないけれど、自分のことは自分でできる。あなたとのデートも、私なりに負担したいと思っているの」
率直に話す彼女に、男性は感動したそうです。「そんな風に正直に話してくれて、ありがとう。僕は月15万円ほど。一緒に楽しめる範囲で、無理なく付き合っていきたいね」
二人はその後、お互いの経済状況を理解した上で、無理のないデートを楽しむようになりました。高級レストランではなく、地元の定食屋で美味しいランチを食べる。温泉旅行も、平日の格安プランを利用する。そんな工夫が、二人の絆を深めていったんです。
お金の話ができる関係は、本当の意味で信頼し合える関係です。若い頃は見栄を張ったり、格好つけたりしたかもしれません。でも今は、ありのままの自分でいられる。それがシニア世代の特権でもあります。
心の豊かさはお金では測れない
もう一つ、大切なことがあります。それは、「お金をかけることだけが愛情表現ではない」ということです。
シニア世代の私たちは、長い人生経験の中で、本当に大切なものが何かを知っています。高価なプレゼントよりも、手作りの料理。豪華な旅行よりも、近所の公園での散歩。そんな些細なことの中に、深い愛情が込められることを。
ある80代のご夫婦の話です。ご主人は定年後、趣味で絵を描き始めました。奥さんの誕生日に、奥さんの似顔絵をプレゼントしたそうです。画材代は数千円。でも、何週間もかけて丁寧に描いた一枚。
奥さんは涙を流して喜びました。「こんなに嬉しいプレゼントは初めて」と。お金では買えない、心のこもった贈り物だったんです。
また、別のカップルは、お互いに「感謝日記」をつけているそうです。相手がしてくれた小さなことに、「ありがとう」を見つける。「今日はコーヒーを淹れてくれてありがとう」「散歩に付き合ってくれてありがとう」。そんな小さな感謝を積み重ねることで、お金をかけなくても心は豊かになる。
年金生活の中では、確かに経済的な制約はあります。でも、制約があるからこそ、工夫する楽しみもある。お金をかけずに相手を喜ばせる方法を考えることが、新たな趣味になるかもしれません。
それぞれの価値観を尊重する
最後に、もう一つ大切なことをお伝えしたいと思います。それは、「人それぞれ、価値観は違う」ということです。
ある人にとっては完全折半が心地よくても、別の人にとっては窮屈に感じるかもしれません。交互払いが楽だという人もいれば、毎回きちんと計算したい人もいる。
大切なのは、相手の価値観を否定しないこと。「こうあるべき」という固定観念を押し付けないこと。
ある男性は、こんな経験を話してくれました。彼は再婚相手の女性と、お金の分担方法で意見が合わなかったそうです。彼は「男性が多めに出すべき」という考え。でも彼女は「完全折半が公平」という考え。
最初は、お互いに譲りませんでした。「僕の時代は男性が出すもんだ」「でも私には私の考えがある」。こんなやりとりが続き、険悪な雰囲気になりかけました。
でも、ある時、彼女がこう言ったんです。「あなたの時代の価値観も、私の価値観も、どちらも間違いじゃないわ。ただ違うだけ。じゃあ、私たち二人だけの、新しいルールを作りましょうよ」
その言葉がきっかけで、二人は話し合いました。そして、「基本は折半だけど、特別な日は交互に奢り合う」という新しいルールを作ったんです。普段の食事は折半。でも誕生日や記念日は、その時々で奢り合う。
「これが僕たちのルール。誰かの真似じゃなく、僕たちが納得できる方法。それが一番だと気づいたんだ」
そうなんです。大切なのは、世間の常識でもなく、昔のルールでもなく、「二人が納得できるかどうか」なんです。
新しい人生の始まり
定年を迎えて、子育てが終わって、あるいはパートナーを亡くして。人生の節目を迎えた時、私たちには新しい選択肢が生まれます。
一人で穏やかに過ごすことも素晴らしい。でも、新しいパートナーと共に歩む人生も、また素晴らしい。
その時、お金の話を避けては通れません。でも、それは決して恥ずかしいことでも、後ろめたいことでもないんです。むしろ、オープンに話し合えることが、新しい関係を築く第一歩。
年金生活という限られた収入の中で、お互いが気持ちよく、ストレスなく過ごせる方法を見つけること。それは、お互いを思いやる気持ちの表れでもあります。
完全折半がいいのか、交互払いがいいのか、役割分担がいいのか。それは、あなたとパートナーが決めればいい。大切なのは、どの方法を選ぶかではなく、「二人で話し合って決めた」というプロセスなんです。
若い頃は見栄やプライドがあって、なかなか本音を言えなかったかもしれません。でも今、私たちにはその必要はありません。ありのままの自分で、率直に、そして優しく。相手と向き合えるんです。
お金の分担方法は、愛情を測る物差しではありません。二人が心地よく過ごすための「道具」にすぎません。大切なのは、一緒にいる時間、支え合える関係、そして何より、お互いへの思いやりです。
年金生活の中でも、いえ、年金生活だからこそ、工夫次第で豊かな時間は過ごせます。高価なレストランでなくても、手作りのお弁当を持って公園へ。豪華な旅行でなくても、近場の温泉で日帰り旅行。そんな小さな幸せを、分かち合えるパートナーがいることの喜び。