人生を重ねてきた皆さんには、きっと様々な人間関係の経験がおありでしょう。恋愛においても、若い頃には気づかなかった複雑な感情や関係性があることを、身をもって感じていらっしゃるのではないでしょうか。
今日は、少し繊細な話題になりますが、中高年の恋愛でも起こりうる「都合のいい関係」について、お話しさせていただきたいと思います。これは決して若い人だけの問題ではありません。シニア世代の皆さんにも、きっと心当たりのある方がいらっしゃることでしょう。
まず最初に申し上げておきたいのは、この話は誰かを責めるためのものではありません。人間関係は複雑で、時には自分でも気づかないうちに、相手にとって「都合のいい存在」になってしまうことがあります。そして、その関係に疑問を感じた時、どのような行動を取るべきなのか。これは、人生経験豊富な私たちだからこそ、冷静に考えることができる問題でもあるのです。
私が知っているある女性のお話をさせていただきますね。彼女は62歳で、3年前にご主人を亡くされた方でした。寂しさを感じていた時期に、昔の同僚だった68歳の男性と再会したのです。
最初は純粋に、昔話に花を咲かせる程度の関係でした。お互いに一人暮らしで、時々お食事をしたり、映画を見に行ったり。彼女にとっては、久しぶりに心が軽やかになる時間でした。
ところが、月日が経つにつれて、その関係に違和感を覚えるようになったのです。彼から連絡が来るのは、決まって彼が寂しい時や、家事を手伝ってほしい時、体調を崩した時でした。彼女が体調不良の時に連絡しても、「大変だね、お大事に」という短い返事だけ。彼女が楽しみにしていた旅行の話をしても、「僕は忙しいから」と素っ気ない反応。
「私って、この人にとって何なんだろう」
そんな疑問が心の中で大きくなっていきました。若い頃なら、きっと感情的になって問い詰めていたかもしれません。でも、人生の経験を積んだ彼女は、まず自分の気持ちを整理することから始めました。
彼女は友人に相談しました。同年代の女性友達は、彼女の話を静かに聞いた後、こう言ったそうです。「あなたがいつも彼の都合に合わせて、彼の求める時にだけ会っているのなら、それは対等な関係とは言えないかもしれないわね」
この言葉に、彼女ははっと気づいたのです。確かに、デートの予定はいつも彼の都合で決まっていました。彼女が提案した予定は、いつも「忙しい」「体調が」という理由で断られていました。彼女の話は聞いてもらえないのに、彼の愚痴は何時間でも聞いていました。
人生経験豊富な私たちだからこそ、相手を思いやり、相手の立場を理解しようとする気持ちが強いものです。でも時には、その優しさが自分を苦しめる結果になってしまうこともあるのです。
彼女は決心しました。一度、連絡を取るのをやめてみようと。
「もし本当に私のことを大切に思ってくれているなら、きっと心配して連絡をくれるはず。もしそうでないなら、それはそれで答えが出る」
彼女の心境は複雑でした。一方では、彼からの連絡を待ち望む気持ちがありました。「やっぱり心配してくれるかもしれない」「私がいなくなって初めて、私の大切さに気づいてくれるかもしれない」という淡い期待もありました。
でも同時に、「もし連絡が来なかったら、それが真実なんだ」という覚悟も決めていました。人生を重ねてきた彼女だからこそ、現実を受け入れる強さも持っていたのです。
一週間が過ぎました。彼からの連絡はありませんでした。
二週間が過ぎました。やはり、何の音沙汰もありませんでした。
彼女の心の中では、様々な感情が渦巻いていました。少しの寂しさ、そして少しの怒り。でも、一番強く感じていたのは、意外にも「すっきりした」という気持ちでした。
「ああ、やっぱりそうだったのね」
彼女は、むしろ安堵していたのです。長い間抱えていたもやもやした気持ちに、はっきりとした答えが出たのですから。
三週間目に入った時、突然彼から連絡が来ました。「最近どうしているの?」という、何気ないメッセージでした。
彼女は少し考えてから、正直に返事をしました。「最近、自分の時間を大切にするようになりました。とても充実しています」
すると彼から、「今度お食事でもどうですか」という誘いが来ました。でも彼女は、もう以前のような関係に戻る気はありませんでした。
「申し訳ありませんが、今は自分の時間を大切にしたいと思っています」
そう返事をして、彼女は新しい生活を始めました。地域のボランティア活動に参加したり、昔からやりたかった陶芸教室に通い始めたり。そこで出会った人たちとの関係は、とても対等で温かいものでした。
実は、この彼女の体験は、多くのシニア世代の方が経験する可能性のあることなのです。特に、配偶者を亡くされた方や、離婚を経験された方などは、寂しさから誰かに頼られることに喜びを感じ、結果的に「都合のいい関係」に陥ってしまうことがあります。
でも、人生の後半戦だからこそ、本当に大切にすべき関係を見極める目を持ちたいものです。
ここで、少し興味深いエピソードをご紹介しましょう。実は、日本の離婚統計を見ると、60歳以上の離婚率が年々増加しているんです。これは「熟年離婚」と呼ばれる現象ですが、その背景には「人生の残り時間を考えた時、本当に幸せな関係を築きたい」という気持ちがあると言われています。
つまり、シニア世代になってからでも、人間関係を見直し、より良い関係を求めることは、決して珍しいことではないのです。むしろ、人生経験を積んだからこそできる、賢い選択とも言えるでしょう。
さて、「都合のいい関係」から抜け出すために連絡を断った時、相手がどのような反応を示すかは、その人によって大きく異なります。
まず多いのが、「特に何も感じない」というパターンです。元々、その人にとってあなたは「いてくれれば便利だけれど、いなくなってもそれほど困らない」存在だった場合、あっさりと諦めてしまうことが多いのです。
これは一見冷たく感じるかもしれませんが、ある意味では清々しい結果とも言えます。あなたが悩んでいた関係が、実際にはそれほど深いものではなかったということが、はっきりとわかるからです。
次に考えられるのが、「少し惜しく感じる」というパターンです。この場合、相手は何度か連絡を試みるかもしれません。「最近どうしているの?」「会えないかな?」といったメッセージが来ることがあります。
でも、注意していただきたいのは、このような連絡が来たからといって、必ずしもあなたが特別視されているわけではないということです。多くの場合、「便利な存在がいなくなって困っている」「新しい都合のいい関係を見つけられずにいる」という可能性が高いのです。
実際に、私が聞いた別の体験談では、音信不通にした後で相手から頻繁に連絡が来たものの、関係を修復した途端に、また以前と同じような一方的な関係に戻ってしまったというケースがありました。
その女性は59歳で、やはり同年代の男性との関係に悩んでいました。彼女が連絡を断つと、彼は毎日のようにメッセージを送ってきたそうです。「心配している」「何かあったのか」「会って話そう」といった内容でした。
彼女は「こんなに心配してくれるなんて、やっぱり私のことを大切に思ってくれていたのかもしれない」と感じて、関係を復活させました。
ところが、一週間もしないうちに、彼はまた以前と同じような態度に戻ってしまったのです。自分の都合の良い時だけ連絡をして、彼女の話には興味を示さない。
彼女はその時に悟ったそうです。「彼が必死に連絡してきたのは、私を愛しているからではなく、便利な存在を失いたくなかったからなんだ」と。
このような経験から学べることは、相手からの反応だけで関係の深さを判断してはいけないということです。大切なのは、その関係があなたにとって本当に幸せなものかどうかなのです。
一方で、稀にですが、本当にあなたの大切さに気づいて、関係を見直そうとする人もいます。
私が知っている70歳の女性は、5年間続いていた一方的な関係に疲れて、相手との連絡を断ちました。すると、相手の75歳の男性は、彼女の家まで会いに来たそうです。
「君がいなくなって初めて、自分がどれだけ君に頼っていたかがわかった。そして、それが君にとって負担だったということも。これからは、もっと対等な関係を築きたい」
その男性は、本当に関係を見直そうと努力し、それまでの一方的な関係から、お互いを思いやる関係へと変化させることができました。
でも、このようなケースは残念ながら少数派です。多くの場合は、時間が経てば元の関係性に戻ってしまうか、あるいは自然消滅してしまうかのどちらかです。
では、私たちシニア世代が「都合のいい関係」に陥らないために、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。
まず大切なのは、自分の気持ちを正直に見つめることです。「この人といると幸せだろうか」「この関係は私にとって心地よいだろうか」「私は大切にされているだろうか」
これらの質問に対して、素直に答えてみてください。もし答えがネガティブなものばかりだとしたら、その関係について見直す時期かもしれません。
次に、相手との関係が対等かどうかを客観視してみることです。いつも相手の都合に合わせていませんか?あなたの提案はいつも却下されていませんか?あなたの話を、相手は真剣に聞いてくれているでしょうか?
人生経験豊富な私たちは、相手を思いやる気持ちが強いものです。でも、その優しさが一方通行になってしまっては、健全な関係とは言えません。
また、寂しさから判断を曇らせてしまわないよう注意することも大切です。一人でいることの寂しさは、確かに辛いものです。でも、「誰かといれば幸せ」というわけではありません。一方的に利用されるような関係にいるよりも、一人で充実した時間を過ごす方が、ずっと健康的で幸せなことかもしれません。
そして、もし「都合のいい関係」から抜け出すことを決意したら、中途半端な対応は避けた方が良いでしょう。曖昧な態度を取ると、相手に「まだ脈がある」と思わせてしまい、結果的により複雑な状況を生み出してしまう可能性があります。
音信不通という方法は、確かに一つの効果的な手段です。でも、それよりも大切なのは、はっきりと自分の気持ちを伝えることかもしれません。
「私は、もっと対等な関係を築きたいと思っています」「今の関係では、私は幸せを感じることができません」
このように、正直に気持ちを伝えることで、相手にも関係を見直すきっかけを与えることができます。もしそれでも相手が変わろうとしないなら、その時こそ距離を置く時期なのでしょう。
人生の後半戦だからこそ、本当に大切な関係を築いていきたいものです。残された時間は有限です。その貴重な時間を、一方的な関係に費やすのはもったいないことです。
私たちシニア世代には、若い人たちにはない強さがあります。それは、人生の経験から得た智慧と、現実を受け入れる勇気です。その強さを活かして、自分にとって本当に価値のある関係を見極め、育てていきましょう。
もし今、あなたが誰かとの関係に疑問を感じているなら、一度立ち止まって考えてみてください。その関係は、あなたを幸せにしてくれているでしょうか。あなたは大切にされているでしょうか。
もし答えが「いいえ」なら、勇気を出して行動を起こす時かもしれません。それは決して簡単なことではありませんが、人生の後半戦を充実したものにするためには、必要な選択かもしれません。
そして、新しい出会いを求めることも大切です。シニア向けの趣味のサークルや、ボランティア活動、生涯学習の場など、素敵な出会いの機会はたくさんあります。そこで出会う人たちとは、きっとより対等で心地よい関係を築くことができるでしょう。
年齢を重ねることは、決してマイナスなことではありません。むしろ、人間関係においても、より質の高い関係を築くことができるようになるのです。その智慧を活かして、残りの人生をより豊かで幸せなものにしていきましょう。
「都合のいい関係」から抜け出すことは、新しい幸せへの第一歩なのです。