60代、70代で新しい恋愛を始めると、若い頃とは違った悩みが生まれることがあります。その中でも特に多いのが「送迎をあてにされて困っている」という問題です。相手を大切に思う気持ちはあるけれど、毎回の送迎が負担になってしまう。そんなデリケートな状況に直面した時、どのように対処すれば良いのでしょうか。
今日は、シニア世代の恋愛ならではのこの問題について、心を込めて考えてみたいと思います。
シニア世代の恋愛に特有の「送迎事情」
73歳の正夫さんは、2年前に妻を亡くした後、地域のダンス教室で68歳の美智子さんと出会いました。二人は徐々に親しくなり、月に2回ほどお食事をする関係になりました。美智子さんは明るくて話上手で、正夫さんにとって大切な存在になっています。
しかし、最近、正夫さんは少し困ったことがありました。美智子さんは運転免許を返納していて、毎回のデートで正夫さんの車での送迎を当然のように期待しているのです。美智子さんの自宅から待ち合わせ場所まで片道30分。往復すると1時間以上かかります。
「最初は『喜んでもらえるなら』と思って引き受けていました。でも、毎回となると、正直言って体力的にも負担で。夜の運転は目が疲れるし、駐車場を探すのも大変なんです」と正夫さんは心境を語ります。
正夫さんの気持ちの奥底には、美智子さんを喜ばせたいという純粋な思いがあります。でも同時に、「毎回送迎するのが当たり前だと思われているのかな」という複雑な気持ちも抱えているのです。年を重ねた恋愛では、こうした実用的な配慮が関係性に大きく影響することがあります。
女性側から見た送迎への期待
一方、美智子さんの立場から考えてみると、また違った心境が見えてきます。美智子さんは5年前に運転免許を自主返納しました。年を取って反射神経が鈍くなったことを自覚し、安全のために決断したのです。
「バスや電車もありますが、夜は本数が少ないし、重い荷物を持って歩くのも大変になってきました。正夫さんが『送るよ』と言ってくださった時は、とても嬉しかったんです」と美智子さんは振り返ります。
美智子さんにとって、正夫さんの送迎は単なる移動手段ではありません。「私のために時間と労力を使ってくれる」という愛情の表現として受け取っているのです。だからこそ、もし正夫さんから「送迎は負担」と言われたら、「愛情が冷めたのかしら」と不安に感じてしまうかもしれません。
このように、シニア世代の恋愛では、お互いの身体的な変化や生活環境の制約が、関係性に予期せぬ影響を与えることがあります。
地方と都市部での違い
送迎問題は、住んでいる地域によっても大きく異なります。都市部では公共交通機関が発達しているため、車がなくても移動は比較的容易です。しかし、地方では車がないと行動範囲が大幅に制限されてしまいます。
76歳の健一さんは、郊外に住む71歳の千鶴子さんとお付き合いしています。千鶴子さんの家の最寄りのバス停までは徒歩15分、そこからさらにバスで30分かかる立地です。
「千鶴子さんに会いに行くたびに、往復2時間近く運転することになります。高速道路も通るし、集中力も必要で、だんだん疲れを感じるようになりました」と健一さんは話します。
健一さんの心の中では、千鶴子さんに会いたい気持ちと、運転の負担への不安が綱引きをしています。年を取ると夜間の運転や長距離運転に不安を感じる人も多く、送迎問題がより深刻になることがあります。
面白いことに、健一さんは若い頃、営業の仕事で毎日100キロ以上運転していました。当時は何ともなかった距離が、今では大きな負担に感じられます。「体力の衰えを実感するのは、ちょっと寂しいものがありますね」と健一さんは苦笑いしながら話してくれました。
健康面での配慮が必要なケース
シニア世代では、健康上の理由で送迎が必要になることもあります。79歳の昭子さんは、膝の痛みで長時間歩くことが困難になりました。恋人の82歳の一郎さんは、昭子さんの状況を理解して、病院への送迎や買い物の付き添いをしています。
しかし、一郎さん自身も白内障の手術を控えており、運転に不安を感じ始めています。「昭子さんを支えたい気持ちはあるけれど、自分の体調も考えないといけない年になりました」と一郎さんは率直に話します。
この場合、送迎問題は単なる「めんどくささ」ではなく、お互いの安全に関わる重要な問題になります。二人は最近、タクシーの利用や家族の協力も検討し始めています。
昭子さんは「一郎さんに無理をしてほしくない。でも、一緒に出かけられなくなるのは寂しい」という複雑な心境を抱えています。年を重ねた恋愛では、このような現実的な制約と向き合いながら、関係を築いていく必要があります。
上手な断り方の実例
では、送迎を負担に感じた時、どのように相手に伝えれば良いのでしょうか。実際にこの問題を解決した方々の体験から学んでみましょう。
74歳の博さんは、恋人の69歳の恵子さんとの送迎問題を、こんな風に解決しました。「恵子さんとの時間はとても大切だけれど、毎回の送迎で疲れてしまって、デートを楽しめなくなってきた」と正直に話したのです。
最初、恵子さんは少し驚いた様子でした。しかし、博さんが「君と過ごす時間をもっと楽しみたいから、送迎以外の方法を一緒に考えてくれる?」と提案すると、恵子さんも理解を示してくれました。
二人は話し合いの結果、月に1回は博さんが送迎し、他の回は恵子さんがタクシーを利用することにしました。タクシー代については、二人で半分ずつ負担することにしたそうです。
「最初は気まずかったけれど、正直に話して良かった。今では、お互いが無理をしない関係になって、前よりも自然に過ごせるようになりました」と博さんは振り返ります。
感謝の気持ちを伝えながら提案する方法
77歳の文子さんも、似たような経験をしています。文子さんの恋人である80歳の清さんは、いつも文子さんを車で迎えに来てくれていました。しかし、清さんの運転に少し不安を感じるようになった文子さんは、勇気を出して話し合いをしました。
「清さんがいつも送迎してくださって、本当にありがたく思っています。でも、清さんの負担になるのは申し訳ないし、お互いにとって良い方法を考えませんか」と文子さんは提案しました。
清さんも、実は運転に不安を感じ始めていたところでした。「文子さんがそう言ってくれて、実は安心しました。僕も最近、夜の運転が心配になってきていたんです」と清さんは正直な気持ちを話してくれました。
二人は現在、昼間の時間帯に会うことが多くなり、近場のカフェや公園で過ごすことを楽しんでいます。文子さんは「送迎のことで気を遣わなくなったら、かえって二人の時間がリラックスしたものになりました」と話しています。
代替案を一緒に考える工夫
81歳の光男さんと76歳の春子さんのカップルは、送迎問題を創意工夫で解決しました。光男さんは運転免許を持っていますが、春子さんの家までの道のりに狭い山道があり、運転に不安を感じていました。
二人は地図を広げて、お互いが通いやすい場所を探しました。その結果、両方の家の中間地点にある駅前のカフェを定番の待ち合わせ場所にすることにしたのです。
「最初は『送迎してもらえないなんて』と少し寂しく思いました。でも、待ち合わせ場所で光男さんを見つけた時のワクワクする気持ちは、学生時代のデートを思い出させてくれます」と春子さんは微笑みます。
光男さんも「お互いが同じ距離を移動してきて待ち合わせるって、なんだか対等な感じがして気に入っています」と話します。
このように、送迎問題を二人で話し合うことで、新しい楽しみ方を発見することもあるのです。
家族の理解と協力を得る方法
シニア世代の恋愛では、家族の理解と協力も重要な要素になります。83歳の敏夫さんは、79歳の悦子さんとの関係で、送迎について息子さんに相談しました。
「父が車で女性を送迎していると聞いて、最初は心配でした。でも、父が楽しそうにしているのを見て、できる範囲でサポートしようと思ったんです」と敏夫さんの息子さんは話します。
現在、息子さんは月に1回程度、敏夫さんと悦子さんのデートの送迎を手伝ってくれています。敏夫さんは「息子に頼るのは申し訳ない気持ちもありますが、おかげで悦子さんとの時間を安心して楽しめます」と感謝しています。
悦子さんも「息子さんがこんなに理解してくださって、本当にありがたいです。家族ぐるみでお付き合いできるのは、この年代ならではの良さかもしれませんね」と話しています。
新しい交通手段の活用
最近では、シニア世代向けの新しい交通サービスも充実してきています。75歳の正子さんは、地域のボランティア送迎サービスを利用して、恋人の78歳の一雄さんとの会合に参加しています。
「最初はタクシーを使っていましたが、料金が気になって。地域のボランティアさんにお願いするようになってから、気軽に出かけられるようになりました」と正子さんは話します。
一雄さんも「正子さんが自分で移動手段を確保してくれるようになって、僕も気が楽になりました。お互いに負担なく会えるのが一番ですね」と安堵の表情を見せます。
このように、地域のサービスや新しい交通手段を活用することで、送迎問題を解決することも可能です。
関係性を見直すきっかけとして
送迎問題は、時として二人の関係性を見直すきっかけにもなります。70歳の雅子さんは、恋人の73歳の健二さんから送迎を断られた時、最初はショックを受けました。
「健二さんが『送迎は負担』と言った時、私は愛されていないのかと思って悲しくなりました。でも、よく考えてみると、私も健二さんに依存しすぎていたのかもしれません」と雅子さんは振り返ります。
二人はその後、お互いの自立性を尊重しながら関係を続けることにしました。雅子さんは公共交通機関の利用方法を調べ、健二さんは雅子さんの努力を温かくサポートしています。
「今では、それぞれが自分の力で待ち合わせ場所に来て、そこで再会する喜びを味わっています。依存ではなく、お互いを尊重する関係になれたと思います」と雅子さんは話しています。