シニアからのはるめくせかい

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介護パジャマを選ぶ最重要ポイント

布一枚で夜の静けさが変わる――そう聞くと、大げさに思えるでしょうか。けれど、介護の現場ではパジャマ一着が利用者の安眠を守り、介護者の負担を軽くし、家族の心をほどく決定打になることがあります。介護パジャマは単なる「寝間着」ではありません。無数の試行錯誤と温かなまなざしが縫い込まれた、ケアと尊厳の融合体です。

私が初めて介護パジャマを手に取ったのは、母が脳梗塞の後遺症で片麻痺になったときでした。一般のパジャマでは袖を通すだけで十数分、ボタンを掛け違えれば母は痛みで顔をしかめ、私も焦りで汗をにじませたものです。ところが、前身ごろが大きく開きマジックテープでぱちんと閉じる介護パジャマに替えた瞬間、着替え時間は半分以下。母の表情が緩み、私の肩の力もふっと抜けました。「着せてもらう」のではなく、「自分で腕を通せた」と感じられる構造が、母の自尊心を守ってくれたのです。

着脱は介護パジャマの最重要ポイントですが、それだけではありません。長時間同じ姿勢で過ごす方にとって、蒸れは大敵。綿やガーゼの通気性はよく知られていますが、近年は肌面に和紙繊維を織り込んだ三層ガーゼや、抗菌ポリジン加工を施したニット素材も登場しています。介護施設の看護主任に取材したところ、「夜勤でシーツ交換をするとき、和紙混ガーゼの利用者は背中の汗が少なく褥瘡の赤みも減った」と実感を語ってくれました。温度と湿度を司る生地選びは、睡眠の質を底上げする隠れた司令塔なのです。

使い勝手と快適さを高める技術革新は止まりません。たとえばサイドファスナーを開くと股下まで分離するタイプは、尿失禁パッドやストーマ装具の交換を座位のまま行えるため、夜間の清拭が劇的にスムーズになります。さらに最近注目されているのが、導電糸を縫い込み体表温の変化をスマートフォンに送信するモニタリングパジャマ。京都の繊維ベンチャーが開発を進めており、就寝中の発熱を早期に察知して介護者に通知する仕組みが実装段階に入っています。近未来の介護パジャマは、まさに“着るセンサー”へと進化しつつあるのです。

一方、数字には表れにくい物語もあります。八十五歳の綾子は脊柱管狭窄症でベッド上生活になり、季節を問わず背中の発汗に悩まされていました。看護師の勧めで吸湿速乾ガーゼの介護パジャマに替えたその夜、背中の蒸れが軽減され、翌朝「久しぶりに背中がさらさらだったの」と笑顔を見せたのです。その数日後、彼女は窓辺で読書する時間が増え、訪れた孫に「本の続きを聞かせて」と催促するほど表情が豊かになりました。衣服がもたらす小さな快適が、心身のエネルギーを回復させる連鎖を私は目の当たりにしました。

介護パジャマを選ぶとき、サイズと素材のほかに確認したいのが「縫い目」と「付属品」の配置です。第一に、背中や腰に硬い縫い代が当たらないか。第二に、ファスナーの金属が直接肌に触れないか。第三に、ボタンが就寝中に外れて誤嚥のリスクにならないか。特に片麻痺や認知症で指先の感覚が鈍る方には、マグネットボタンや隠しスナップが安心材料になります。さらに、在宅介護か施設介護かで洗濯回数は大きく変わるため、耐久性の指標として「家庭洗濯試験100回クリア」などの表示も参考になります。

コストは決して無視できません。介護度が高いほど替えパジャマの枚数は増え、洗濯頻度も跳ね上がります。家計にやさしいモデルとしては、一着四千円台のポリエステル混もありますが、生地が固く寝返りの少ない利用者には向かない場合があるので要注意です。反対に一万円超のオーガニックコットンは高価ですが、摩擦が少なく皮膚トラブル抑制に寄与し、結果的に医療費やガーゼ代を節約できるケースもあります。費用対効果を見極めるポイントは「一着の寿命」と「肌トラブル防止率」のバランスです。

介護保険制度は衣類には適用されませんが、自治体によっては難病患者等日常生活用具給付でパジャマが対象になることもあります。地域包括支援センターに相談し、補助金・助成金の枠を確認すると意外な支援策が見つかるかもしれません。さらに、不要になった介護パジャマを回収し、リユースやアップサイクルに回すNPOも全国で増えています。循環型の選択肢は、家計と地球の両方に優しい未来を開く鍵となるでしょう。

洗濯ケアもひと工夫です。柔軟剤を多用すると吸水性が損なわれ、汗がこもりやすくなります。私は介護施設のランドリースタッフから教わった通り、弱酸性洗剤を用い、すすぎを一回追加することでタオル地の風合いを長持ちさせています。また、屋内干しの機会が多い介護現場では、抗菌防臭加工がされていても雑菌が繁殖しやすいもの。週に一度は60度のお湯で10分つけ置きし、天日干しで紫外線殺菌を行うと、消臭剤に頼らず清潔感をキープできます。

これまで機能面に焦点を当ててきましたが、デザイン性を軽視する必要はありません。ラベンダーやサックスブルーの淡い色味はリラックス効果が高く、介護者の心理的負担も和らげます。介護記録アプリの開発者が実施した実証実験では、パステルカラーのパジャマを着用した利用者は、原色を着用したグループと比べて夜間の介護呼出し回数が平均一二%減少したとの報告がありました。色彩が自律神経に及ぼす影響は想像以上に大きいのです。

国内外のメーカーは、こうした科学的エビデンスを取り込みながら、パジャマ以上・医療衣料未満の新領域を開拓しています。イギリスの老舗ランジェリーブランドは、ウールに極細カシミヤをブレンドした秋冬向け介護パジャマを発表し、「羊毛は刺激が強い」という常識を覆しました。一方、北欧ではサステナブルなテンセル™繊維を使用し、肌触りと環境負荷の低減を両立させたモデルが人気を博しています。こうした動きは、日本メーカーにも刺激を与え、ヨーロッパ産のエコ認証糸を採用するハイエンドラインが今春から続々と店頭に並び始めました。

未来の介護パジャマはカスタマイズが主流になると言われます。すでにECサイトの一部では、利用者の身長・体重・麻痺側・寝姿勢を入力すると、AIが最適なサイズと開閉方向を提案し、3Dプリンタでパターンを生成するサービスが稼働しています。前述の「寝着楽衣」が提供するオーダーメイドは、胸囲・腹囲・大腿囲をミリ単位で調整し、「寝返りの頻度」「介護者の利き手」まで反映したうえで裁断データを作成。到着したパジャマには採寸者の名前入りタグが付され、届ける側も受け取る側も特別な物語を共有できるのです。

最後に、選択肢が多すぎて迷う方へ、私なりの選び方をまとめます。まず、着替えのしやすさは「開き方と留め具」で測る。次に、皮膚トラブル抑制には「素材と縫製」を観察する。そして、睡眠の質を高めるために「保温と通気」を両立させる。予算が許すなら「パーソナライズ」へ踏み込み、環境意識も視野に入れる。これらを順にたしかめれば、広告に踊らされることなく「わが家の正解」にたどり着けるでしょう。

介護は、ときに長く続くマラソンです。その道のりで、パジャマはゴールへ導くペースメーカーになってくれます。利用者が朝までぐっすり眠れれば、介護者も穏やかな表情で一日を始められる。パジャマのやわらかな布が、家族全員の心拍を静かに整える――そんな循環が生まれたとき、介護はやさしさのリレーに姿を変えるのです。

さあ、今夜、洗い立ての介護パジャマを胸に抱えてベッドサイドへ向かうとき、そっと自分に問いかけてみてください。「この一着が、明日の笑顔を何枚咲かせてくれるだろう」と。布の温もりは、あなたの問いに答えるかのように、じんわりと体温を映してくれるはずです。