「一人が好きって、寂しい人って思われないかしら」そんな不安を抱えていませんか。配偶者を亡くされた方、離婚された方、あるいは生涯独身を貫いてこられた方。人生の後半戦に入って、一人の時間が増えたとき、周りの目が気になることもあるでしょう。
でも、声を大にして言いたいのです。一人が好きというのは、決して悪いことではありません。むしろ、長い人生を生きてきたからこそ分かる、自分らしさを大切にする生き方なんです。
今日は、シニアの皆さんが一人の時間を心から楽しみ、それでいて必要なときには新しい人間関係も築いていける、そんな生き方についてお話しします。
一人が好きになったのはいつからですか
若い頃は、誰かと一緒にいることが当たり前だったという方も多いでしょう。結婚して家族を持ち、子供を育て、仕事に追われ。気がつけば、自分一人の時間なんてほとんどなかった。そんな日々を過ごしてきたのではないでしょうか。
それが、子供が独立し、定年退職を迎え、あるいは配偶者を見送って。ふと気づくと、一人の時間が増えている。最初は戸惑いを感じた方もいるかもしれません。「この静けさ、どう過ごせばいいの」「誰かのために何かをするのが当たり前だったのに」
でも、少しずつ慣れてくると、不思議なことに気づきませんでしたか。一人の時間って、意外と心地いい。誰にも気を使わず、好きな時間に起きて、好きなものを食べて、好きなテレビを見て。そんな自由が、実は幸せだったんだって。
70代の女性の話があります。彼女は5年前に夫を亡くしました。50年連れ添った夫との別れは、想像を絶する悲しみだったそうです。最初の1年は、涙が止まらない日が続きました。夫の好きだった料理を作っては泣き、夫の服を整理しては泣き。
でも、少しずつ時間が癒してくれました。そして気づいたんです。夫は朝型だったけれど、自分は実は夜型だったこと。夫は肉料理が好きだったけれど、自分は魚や野菜が食べたかったこと。夫はテレビのチャンネル権を握っていたけれど、自分はもっと違う番組が見たかったこと。
「こんなこと考えるなんて、夫に申し訳ない」最初はそう思ったそうです。でも、亡くなった夫が天国から「これからは自分の好きなように生きていいんだよ」と言ってくれている気がしたんだとか。それから彼女は、自分のペースで生きることを選びました。
朝はゆっくり10時に起きて、好きなだけコーヒーを飲む。昼は軽く野菜スープだけ。夜は好きな韓流ドラマを見ながら、お気に入りのお菓子をつまむ。そんな生活が、彼女にとっての幸せになったんです。
一人が好きなことを否定しないでください
「でも、一人でいると周りから『寂しくないの?』って聞かれて困るのよ」そんな声が聞こえてきそうです。分かります。日本の社会は、特にシニアに対して「一人でいる=可哀想」というイメージを持ちがちですから。
近所の人が「誰か紹介しましょうか」と善意で言ってくる。子供が「心配だから一緒に住もう」と提案してくる。友人が「私たちのサークルに入りなさいよ」と誘ってくる。みんな親切心からなんですよね。でも、本人は一人が心地いいのに。
ここで大切なのは、「一人が好き」ということを、自分で肯定することです。他人の評価ではなく、自分の気持ちを優先する。それが、シニアの特権なんです。
若い頃は、周りの目を気にして生きてきました。親の期待に応え、会社の評価を気にし、世間体を考えて。でも、人生の後半戦は違います。もう誰かに認められるために生きる必要はないんです。自分が心地いいと思う生き方を選ぶ権利があるんです。
65歳の男性の話を聞いたことがあります。彼は3年前に離婚しました。40年近い結婚生活でしたが、お互いの価値観の違いが年を重ねるごとに大きくなり、最終的に別々の道を選んだそうです。
離婚後、周りの反応は様々でした。「この年で離婚なんて」「寂しいでしょう」「再婚相手を探したら」。そんな言葉に、最初は傷ついたそうです。自分の決断が間違っていたのかと悩みました。
でも、一人暮らしを始めて半年が過ぎた頃、彼は気づいたんです。毎日が本当に楽しい。好きな時間に釣りに行けて、好きなだけ本を読めて、誰にも文句を言われずに趣味の模型作りに没頭できる。この自由が、何よりも幸せだって。
「寂しくないの?」と聞かれたら、彼は笑顔で答えるようになったそうです。「全然。むしろ毎日が充実してるよ」って。その堂々とした態度に、周りも次第に何も言わなくなりました。
一人を選んでいるのか、一人しかいないのか
ただし、ここで少し立ち止まって考えてみてください。あなたは「一人を選んでいる」のか、それとも「一人しかいない」のか。この違いは、とても大きいんです。
「一人を選んでいる」というのは、誰かと一緒にいることもできるけれど、あえて一人を選んでいる状態。友人はいるし、必要なときは誰かと会うこともできる。でも、基本的には一人の時間が好きで、それを楽しんでいる。
一方、「一人しかいない」というのは、本当は誰かと繋がりたいのに、その方法が分からない状態。友人もいない、誰とも会話をしない日が続く。そして、それが辛い。
もしあなたが後者なら、少し注意が必要かもしれません。人間は社会的な生き物ですから、完全に孤立してしまうと、心身の健康に影響が出ることがあります。認知機能の低下や、うつ状態のリスクも高まるという研究結果もあるんです。
でも、前者なら大丈夫。一人の時間を楽しみながらも、必要なときには人と繋がれる。そんなバランスが取れていれば、一人が好きというのは、とても健康的な生き方です。
自分はどちらなのか、時々自問してみてください。「私は一人を選んでいるのか、それとも一人に閉じこもっているのか」。その答えが、あなたの生き方の指針になります。
シニアだからこそ分かる、自分のペースの大切さ
長い人生を生きてきたからこそ、自分のペースがどれだけ大切か、身に染みて分かりますよね。若い頃は、周りのペースに合わせることが多かった。でも、シニアになった今、もう無理をする必要はないんです。
朝型の人もいれば夜型の人もいる。活動的な人もいれば、静かに過ごすのが好きな人もいる。人と話すのが好きな人もいれば、一人で考える時間が必要な人もいる。どれが正しいということはありません。大切なのは、自分のペースを知り、それを尊重することです。
68歳の女性は、趣味のコーラスサークルに入っていました。でも、週2回の練習が次第に負担になってきたそうです。体力的にきついというより、自分の時間が減ることが辛かった。でも、「みんなに迷惑をかけるから」と我慢して続けていました。
ある日、思い切ってサークルのリーダーに相談したそうです。「週1回にしてもらえませんか」って。すると、リーダーは笑顔で「いいですよ。無理は禁物ですから」と言ってくれました。さらに、他のメンバーからも「実は私も週2回はきついと思ってた」という声が上がったんです。
結局、サークル全体で話し合って、練習を週1回に減らすことになりました。その結果、みんなの練習への集中力が増して、歌のレベルも上がったそうです。自分のペースを大切にすることは、自分だけでなく、周りにも良い影響を与えるんですね。
ここで少し面白い話を挟ませてください。実は、江戸時代の日本では「隠居」という制度があったんです。50代、60代になると家督を子供に譲って、自分は隠居生活を送る。これは単なる引退ではなく、人生の後半戦を自分のために生きる時間として、社会的に認められていたんです。
隠居した人たちは、趣味に没頭したり、旅に出たり、学問を学んだり。自分の好きなことをして過ごしました。ある意味、現代のシニアライフの先駆けですよね。つまり、一人の時間を楽しむというのは、日本の伝統的な生き方の一つでもあるんです。
新しい関係性の築き方
「一人が好き」と言っても、完全に人との関わりを断つ必要はありません。むしろ、自分のペースを保ちながら、適度な距離感で人と繋がることができれば、人生はもっと豊かになります。
シニアになってから新しい友人を作るのは難しいと思っていませんか。確かに、若い頃のように学校や職場で自然と友人ができる環境はないかもしれません。でも、シニアにはシニアの友人の作り方があるんです。
72歳の男性は、近所の図書館に週3回通っています。特に決まった用事があるわけではなく、ただ本を読むだけ。でも、いつも同じ時間に来る人がいることに気づきました。同世代の男性で、やはり本を読んでいる。
ある日、勇気を出して声をかけてみたそうです。「いつも熱心に読書されていますね」って。すると相手も「あなたもですね。何をお読みですか」と返してくれました。それがきっかけで、二人は図書館で会うたびに少し話すようになりました。
深い友情というほどではないけれど、週に数回、本について10分ほど話す関係。それが、彼にとってちょうどいい人間関係なんだそうです。一人の時間は大切にしながらも、誰かと繋がっている感覚がある。そんなバランスが心地いい。
女性の場合も同じです。69歳の女性は、週に一度だけ、近所のカフェでモーニングを食べに行きます。そこで会う常連客の女性たちと、軽く挨拶を交わす程度の関係。でも、それだけで十分だと言います。
「毎日会いたいわけじゃないし、深く付き合いたいわけでもない。でも、週に一度、顔見知りの人と『おはよう』『今日はいい天気ね』って言葉を交わすだけで、心が温かくなるの」
シニアの人間関係は、若い頃とは違っていいんです。濃密である必要はありません。浅くても、自分が心地いいと思える距離感があればいい。それを理解してくれる相手と、適度に繋がる。それが、シニアの人間関係の理想形かもしれません。
恋愛だって、自分のペースでいい
「シニアの恋愛なんて」と思う人もいるかもしれませんが、最近は配偶者を亡くした後や離婚後に、新しいパートナーを見つけるシニアも増えています。でも、若い頃の恋愛とは違います。シニアの恋愛は、もっと自由で、もっと自分のペースを大切にしたものでいいんです。
75歳の女性と78歳の男性のカップルがいます。二人とも配偶者を亡くして数年後、地域のボランティア活動で出会いました。お互いに惹かれ合い、交際を始めたそうです。
でも、彼らの関係は、一般的な恋人とは少し違います。週に2回だけ会う。電話も毎日はしない。一緒に住む予定もない。お互いの家を行き来することもほとんどなく、外で食事をしたり、散歩をしたりするだけ。
周りからは「それで本当に交際してるの?」と言われることもあるそうです。でも、二人にとってはこれが理想の関係なんです。
「もう若くないから、四六時中一緒にいるのは疲れるのよ。自分の時間も大切にしたいし、相手の時間も尊重したい。でも、週に2回、好きな人と会ってお茶を飲んで、たわいもない話をする。それだけで心が満たされるの」と女性は言います。
男性も「彼女は私の人生のパートナーというより、人生を楽しむための良き友人という感じかな。お互いに依存せず、でもお互いを大切に思っている。こんな関係、若い頃にはできなかったよ」と笑います。
シニアの恋愛は、結婚が前提である必要もないし、毎日会う必要もない。自分たちが心地いいと思える形を作ればいい。それが、人生経験を積んだシニアだからこそできる、成熟した関係性なんです。
一人の時間を充実させる具体的な方法
一人が好きというのは素晴らしいことですが、その時間をどう過ごすかで、人生の質は大きく変わります。ただボーッとテレビを見ているだけでは、時間がもったいない。一人の時間を、本当に充実したものにするために、いくつかの提案をさせてください。
まず、趣味を持つこと。「今さら新しいことなんて」と思わないでください。シニアになってから始めた趣味が、人生最大の楽しみになったという人はたくさんいます。
70歳から水彩画を始めた男性は、今では地域の文化祭に出展するまでになりました。「若い頃は仕事ばかりで、絵を描く時間なんてなかった。でも定年後に始めてみたら、これが本当に楽しくて。下手でもいいんです。自分が楽しければ」
読書も素晴らしい趣味です。時間を気にせず、好きな本を好きなだけ読める。それがシニアの特権です。図書館を活用すれば、お金もかかりません。
散歩も立派な趣味です。毎日同じ道を歩くだけでも、季節の移り変わりを感じられます。桜が咲き、紫陽花が色づき、紅葉が深まり、雪が降る。そんな変化を楽しみながら歩く時間は、心を豊かにしてくれます。
次に、学び続けること。シニア大学や公民館の講座など、学ぶ機会はたくさんあります。歴史、文学、外国語、パソコン。何でもいいんです。学ぶことは、脳を活性化させ、生きる喜びを与えてくれます。
そして、日記をつけること。毎日の出来事や感じたことを書き留める。それだけで、自分の人生を振り返る貴重な記録になります。孫に残す宝物にもなるかもしれません。
一人の時間を大切にしながらも、周りとの繋がりを持つ工夫
一人が好きでも、完全に孤立するのは避けたいもの。では、どうやって一人の時間と人との繋がりのバランスを取ればいいのでしょうか。
まず、定期的な予定を作ること。月に一度、友人とランチをする。週に一度、サークル活動に参加する。そういう「決まった予定」があると、それ以外の時間を一人で過ごすことに罪悪感を感じなくなります。
次に、オンラインを活用すること。「スマホなんて難しい」と思わないでください。今は使いやすいアプリがたくさんあります。LINEで孫と写真を送り合ったり、ビデオ通話で遠くの友人と話したり。家にいながら人と繋がれるのは、一人が好きな人にとって理想的な方法です。
また、ボランティア活動もおすすめです。週に数時間だけ、自分のペースで参加できる活動を選べば、人との繋がりを持ちながらも、自分の時間を犠牲にしすぎることはありません。
そして何より大切なのは、「一人が好き」という自分の特性を、周りの人に伝えること。「私は一人の時間が必要なタイプなんです」と正直に言えば、多くの人は理解してくれます。
子供に対しても、はっきり伝えましょう。「心配してくれるのは嬉しいけれど、私は一人の時間が好きなの。寂しくないから大丈夫よ」って。最初は心配するかもしれませんが、あなたが生き生きしている姿を見れば、安心してくれるはずです。
「一人が好き」を否定する社会の声に惑わされないで
日本の社会は、集団を重視する傾向があります。「みんなと一緒」が良いこととされ、「一人でいる」ことが否定的に見られることもあります。特にシニアに対しては、「孤独死」などのネガティブなイメージと結びつけられることも。
でも、一人でいることと孤独は違います。一人を選んで、その時間を楽しんでいる人は、孤独ではありません。むしろ、大勢の中にいても心が満たされない人の方が、本当の意味で孤独なのかもしれません。
社会の声に惑わされないでください。「こうあるべき」という型にはめられる必要はありません。あなたの人生です。あなたが心地いいと思える生き方を選ぶ権利があります。
もちろん、周りの人の善意を無下にする必要はありません。心配してくれる気持ちには感謝を伝えつつ、「私は大丈夫です」と笑顔で答えればいい。あなたが幸せそうにしていれば、周りも安心するはずです。