長い人生を歩んでこられた皆さんには、「離婚」や「再婚」という言葉が、昔と今ではまったく違う重みを持つようになったことを、お感じになっているのではないでしょうか。
私たちが若い頃は、離婚というのは珍しいことでした。近所で離婚した人がいると、ひそひそ話の種になったものです。でも今は違います。3組に1組が離婚する時代。そして、離婚した後に新しいパートナーと再婚する人も、決して少なくありません。
娘さんや息子さん、あるいはお孫さんの中にも、再婚されたり、再婚相手と出会ったりした方がいらっしゃるかもしれませんね。そんな時、私たちシニア世代は、「新しい人生の門出だね、おめでとう」と温かく迎えたいと思います。
でも、再婚には、初婚にはない複雑さがあるんです。特に、旦那さんが元嫁への気持ちを完全に整理できていない場合、新しい奥さんは想像以上に苦しむことになります。
先日、近所のスーパーで偶然会った知人の娘さん、30代の真面目な主婦の方ですが、買い物カートを押しながら少し憔悴した表情をしていました。いつもは明るく挨拶してくれる方なのに、その日は違っていました。
後日、お茶に誘ったところ、ぽつりぽつりと話してくれたんです。再婚した旦那さんのことを。
彼女の旦那さんは、前の奥さんとの間に子供がいます。月に一度、子供と面会する。それ自体は仕方のないことです。子供には父親が必要ですから。でも、旦那さんの部屋には、今でも元嫁との写真が残っていたそうなんです。「子供が写っているから」というのが理由でした。
最初は気にしないようにしていたそうです。でも、旦那さんが元嫁と子供のことで連絡を取り合う時の、あの嬉しそうな表情。LINEの通知音が鳴るたびに、顔がぱっと明るくなる。そんな姿を見るたびに、彼女の心は少しずつ冷えていったそうです。
「夫の心の中に、まだ元嫁がいる気がするんです」
震える声でそう言った時、彼女の目には涙が浮かんでいました。勇気を出して夫に尋ねたそうです。「あなた、まだ元嫁のこと、好きなの?」って。でも、返ってきたのは「過去は過去だよ」という、どこか冷たく感じる言葉だけ。
それ以来、二人の会話は減っていきました。「こんなはずじゃなかったのに」という後悔が、彼女の心を日に日に重くしていったんです。
この彼女の心の痛み、想像できますか? 愛する人と新しい人生を始めたはずなのに、見えない誰かの影におびえながら暮らす毎日。自分は本当に愛されているのか、それとも元嫁の代わりなのか。そんな不安が頭から離れないんです。
別の方の話もしましょう。40代でパートをしている女性、彼女もまた再婚でした。旦那さんは気さくで優しい人。でも、時々ぽろっとこんなことを言うんだそうです。
「元嫁の作る煮物は絶品だったな」
「元嫁は家事が完璧だった」
「元嫁は我慢強い性格でさ」
最初は「ああ、昔話ね」と聞き流していました。でも、それが何度も続くと、だんだん辛くなってくる。「私は二番目なんだ」「元嫁には敵わないんだ」という思いが、じわじわと心に染み込んでいったそうです。
料理をしていても、「これ、元嫁より美味しいかな」と気になる。掃除をしていても、「元嫁はどうやっていたんだろう」と考えてしまう。夫婦で過ごす時間さえ、いつも元嫁の影がちらついて、心から楽しめない。
「元嫁という見えない影に、毎日悩まされるなんて思わなかった」
彼女はそう言って、深いため息をつきました。でも、勇気を出してカウンセリングを受けたそうです。そこで、自分の気持ちを整理し、夫にも正直な思いを伝えることができた。それが関係改善のきっかけになったと、後日教えてくれました。
ここで、ちょっと面白い話をひとつ。私の友人に、80代の元気なおじいちゃんがいるんです。この方、実は70歳で再婚されたんですよ。お相手は同じく70代の女性。二人とも配偶者と死別していました。
ある日、その方がこんなことを言っていました。「最初のうちは、前の女房の作り方と違うとか、前の女房はこうだったとか、つい言っちゃったんだよ。そしたら今の女房にガツンと言われてね。『私は前の奥さんじゃありません。比べるなら、お別れしましょう』って」
真っ青になって謝ったそうです。それ以来、前の奥さんの話は一切しなくなった。「女房ってのは、何歳になっても怖いもんだよ」と苦笑いしていましたが、その表情は幸せそうでした。年齢を重ねても、人の心は変わらないんだなあと思いました。
さて、話を戻しましょう。
再婚で特に複雑なのが、「子供を介したつながり」なんです。
30代の看護師として働く女性の話です。彼女の旦那さんには、前の奥さんとの間に小学生の子供がいます。面会の度に、旦那さんは元嫁と連絡を取り合います。
最初は理解していたんです。子供のためだから仕方ない、って。でも、ある日、旦那さんが電話で元嫁と話しているのを聞いてしまったんです。子供の成績や習い事の話をしながら、二人で笑っている。その笑い声が、とても楽しそうで、幸せそうで。
彼女の胸に、鋭い痛みが走りました。「ああ、この人はまだ元嫁のことが好きなんだ」って。頭ではなく、心で確信してしまったんです。
その夜、彼女は一人で泣きました。「こんな複雑な状況になるなら、再婚なんてしなければよかった」って。でも、旦那さんのことは好きなんです。だから別れたくない。その板挟みが、彼女をさらに苦しめました。
後日、思い切って夫と話し合いをしたそうです。自分の気持ちを正直に伝えた。夫も初めて、自分の行動が妻を傷つけていたことに気づいたそうです。それから少しずつ、二人の距離は縮まっていきました。
彼女の心には、きっと複雑な感情が渦巻いていたんでしょうね。旦那さんを愛する気持ち、元嫁への嫉妬、子供への申し訳なさ、自分の器の小ささへの情けなさ。でも、そういう感情を持つことは、決して悪いことじゃないんです。それが人間というものですから。
別の問題もあります。「過去の美化」です。
40代で会社員として働く女性の旦那さんは、時々元嫁との思い出話をするそうです。「元嫁とは沖縄に行ってね」「元嫁とはよくドライブしたな」「元嫁と見た映画が面白くて」
そのたびに、彼女は思うんです。「私との時間は大切じゃないの?」って。二人で出かけても、旦那さんの頭の中には元嫁との思い出があるように感じる。自分との今が、過去の思い出より色褪せて見える。
「過去に縛られた夫と結婚したことに、本当に後悔した」
そう言った時の彼女の表情は、悲しみと諦めが混じっていました。でも、彼女も負けませんでした。夫と話し合い、「過去の話は避ける」というルールを作ったそうです。最初は夫も戸惑っていましたが、徐々に現在に目を向けるようになり、関係は改善していったそうです。
人の記憶というのは不思議なもので、過ぎ去った時間は美しく見えるものなんですよね。辛かったことは忘れて、楽しかったことばかり思い出す。でも、それが今を生きる人を傷つけることもある。過去を大切にしながらも、今を生きる人を大切にする。そのバランスが、本当に難しいんです。
そして、最も深刻なのが「信頼関係の揺らぎ」です。
20代でフリーターをしている若い女性の話です。彼女は旦那さんを心から信頼していました。「この人なら、何があっても私を守ってくれる」って。
でも、ある日、旦那さんのスマホに見慣れない名前からメールが来ているのを見てしまったんです。夫に聞くと、それは元嫁からのメールでした。しかも、それを隠していた。
「なぜ隠したの?」と尋ねると、「心配かけたくなかったから」という答え。でも、彼女にはそれが言い訳にしか聞こえなかった。心の中で、疑心暗鬼が膨らんでいったんです。
「信頼できると思っていたのに、裏切られた気がする」
涙ながらに語った彼女の姿が、今でも忘れられません。信頼というのは、積み上げるのに時間がかかるのに、崩れるのは一瞬なんですよね。
でも、彼女はこの出来事を、関係を見直すきっかけにしたそうです。夫婦でとことん話し合い、お互いの本音をぶつけ合った。それが、かえって二人の絆を強くすることになったと、後日聞きました。
私たちシニア世代から見ると、「そんなことで悩むの?」と思うかもしれません。でも、人の心というのは、年齢に関係なく繊細なものなんです。特に愛する人に関することは、小さなことでも大きな痛みになります。
実は、これはシニアの私たちにも無関係な話じゃないんです。
配偶者を亡くされて、新しいパートナーと出会う方も増えています。でも、亡くなった配偶者の写真を飾り続けたり、思い出話ばかりしたりすると、新しいパートナーは傷つきます。
あるいは、息子さんや娘さんが再婚した時、私たち親はどう接すればいいのか。「前の嫁のほうがよかった」なんて言葉は、絶対に禁物です。新しい家族を温かく迎えること。それが、幸せな再婚を支える第一歩なんです。
では、どうすればいいのでしょうか。
まず大切なのは、「オープンなコミュニケーション」です。不安を溜め込まず、正直に伝えること。「元嫁のことが気になる」「あなたの気持ちが知りたい」って。怖いかもしれません。答えを聞くのが怖いかもしれません。でも、話し合わなければ、何も変わらないんです。
そして、「境界線を設定する」こと。元嫁との連絡は、子供に関することだけに限定する。写真や思い出の品は、見えないところに片付ける。これは冷たいことではありません。新しい家族を大切にするための、必要なルールなんです。
夫婦の絆を強化することも忘れてはいけません。共通の趣味を見つけたり、二人だけの思い出を作ったり。過去の思い出より、今の時間が輝いていると感じられるような関係を築くこと。それが、元嫁の影を薄くする一番の方法かもしれません。
時には、専門家の力を借りることも大切です。カウンセリングは恥ずかしいことじゃありません。プロの手を借りて、複雑な感情を整理する。それが、新しい一歩を踏み出すきっかけになることもあります。
私たちシニア世代ができることは、若い世代の悩みに耳を傾けることです。「昔はこうだった」という話も大切ですが、「今はこうなんだね」と受け入れることも大切。そして、長い人生で学んだ知恵を、そっと伝えてあげること。
「人の心は複雑だけど、誠実に向き合えば、きっと道は開ける」
そんなメッセージを、私たちの生き方で示せたら素敵ですよね。
再婚というのは、二度目の挑戦です。失敗を経験しているからこそ、今度こそ幸せになりたいと願う。その気持ちは、とても尊いものです。でも、過去を完全に消すことはできません。大切なのは、過去と折り合いをつけながら、今を大切に生きること。