長い人生を歩んできた皆さんには、結婚について若い世代とは異なる深い理解があることでしょう。何十年という歳月を共に過ごしたパートナーシップ、時には別れを経験された方もいらっしゃるかもしれません。そんな豊富な人生経験を持つシニア世代だからこそ語れる、結婚の本当の意味について、今日は一緒に考えてみたいと思います。
結婚というものは、若い頃には情熱的な恋愛の延長線上にあるゴールのように思えたものです。しかし、年を重ね、実際に長い年月を誰かと共に過ごした経験を持つ今、結婚の真の姿がより鮮明に見えてくるのではないでしょうか。
人生の先輩たちが残した言葉の重み
ドイツの哲学者ニーチェが残した言葉をご存知でしょうか。「結婚するときはこう自問せよ。年をとってもこの相手と会話ができるだろうか。他は年月がたてば変化することだ。」
この言葉を初めて聞いた時、若い頃の私たちはどう感じたでしょうか。恋愛の真っ最中であれば、「もちろん一生話し続けられるに決まっている」と思ったかもしれません。しかし、実際に長い結婚生活を経験された方なら、この言葉の重みが身に染みて理解できるはずです。
美しい容姿は年月と共に変化し、若い頃の情熱的な気持ちも時と共に穏やかなものへと変わっていきます。体力も衰え、価値観も少しずつ変わっていく。そんな中で、最後まで残り続けるのは、相手との心の通い合い、会話の楽しさなのです。
私の知人で、今年金婚式を迎えられたご夫婦がいらっしゃいます。奥様は軽い認知症を患っていらっしゃいますが、ご主人は毎日変わらず優しく語りかけ、昔の思い出話をされています。「彼女が忘れてしまった分も、私が覚えていてあげるんです」と微笑まれるご主人の表情には、50年という歳月が育んだ深い愛情が溢れていました。
これこそがニーチェの言葉の真意なのでしょう。外見や状況がどれほど変わっても、心の奥底で通じ合える関係性。それが結婚の本質的な価値なのです。
寛容さという結婚生活の知恵
イギリスの聖職者トーマス・フラーは、「結婚前には両目を大きく開いて見よ。結婚してからは片目を閉じよ」という興味深い言葉を残しています。
結婚前には相手をしっかりと見極めることが大切だという前半部分は、多くの方が理解しやすいでしょう。しかし、後半の「結婚してからは片目を閉じよ」という部分は、実際に結婚生活を送った経験がなければ、その真意を理解することは難しいかもしれません。
結婚生活には、毎日の小さなストレスが積み重なります。歯磨きの後にコップを洗わない、靴下を脱ぎ散らかす、食事の好みが合わない、お金の使い方が気に入らない。若い頃であれば、そんな小さなことでも大きな喧嘩の原因になったりします。
しかし、長い結婚生活を送る中で学ぶのは、完璧な人間など存在しないということ、そして愛するということは相手の欠点も含めて受け入れることだということです。「片目を閉じる」とは、決して相手に無関心になることではありません。大切なことはしっかりと見つめつつ、小さな欠点には寛容になることの大切さを説いているのです。
75歳になる女性の方から、こんな話を聞いたことがあります。「主人は50年間、食事の後にお箸を洗い場に置きっぱなしでした。最初の10年は注意し続けていましたが、ある日ふと『これも彼の個性なんだな』と思えるようになったんです。そうしたら、不思議なことに腹が立たなくなりました。今では、彼が箸を置きっぱなしにするたびに、『ああ、今日も元気だったんだな』と安心するんです」
この方の言葉からは、長い年月をかけて培われた深い愛情と理解を感じることができます。これこそが「片目を閉じる」ことの本当の意味なのでしょう。
孤独を守り合うという愛の形
精神科医であり作家でもあった北杜夫さんは、「結婚とは、愛することを通して、相手の孤独を守り続ける契約」という美しい表現を残されました。
この言葉は、一見矛盾しているように感じられるかもしれません。愛し合っているのに、なぜ孤独を守るのでしょうか。しかし、人生を重ねた今だからこそ、この言葉の深い意味が理解できるのではないでしょうか。
人間は本質的に一人一人が独立した存在です。どれほど愛し合っても、相手の心の奥底をすべて理解することはできませんし、すべてを共有する必要もありません。大切なのは、相手が一人の人間として持っている内面的な世界、時には秘密にしておきたい部分、そういったものを尊重し、守ってあげることなのです。
これは特に、長い人生を歩んできたシニア世代には深く響く考え方かもしれません。若い頃は、「すべてを分かち合いたい」「何でも話し合いたい」と思っていたかもしれません。しかし、年を重ねると、時には一人で考える時間の大切さ、相手にそっとしておいてほしい瞬間があることを理解するようになります。
80歳を超えるご夫婦の話を聞いたことがあります。奥様は毎朝早起きをして、一人で庭の花を眺めながらコーヒーを飲む時間を大切にされています。ご主人はその時間は決して邪魔をせず、そっと見守っているそうです。「彼女にとって、あの時間は特別なもの。私が入り込む場所じゃない」とご主人は言います。それでいて、朝食の時間には自然と会話が弾み、一日の始まりを共に迎える。これこそが「相手の孤独を守る」ということの実例でしょう。
自由を祝福するという愛の境地
作家の三島由紀夫は、「愛することは、相手を自由にすること。結婚は、その自由を祝福すること」という言葉を残しています。
若い頃の恋愛では、しばしば相手を「所有」したいという気持ちが強くなります。「私だけのもの」「誰にも渡したくない」という独占欲は、恋愛感情の自然な一面でもあります。しかし、結婚生活を長く続ける中で学ぶのは、真の愛とは相手を束縛することではなく、相手が自分らしく生きることを応援することだということです。
これは特に、人生経験豊富なシニア世代には理解しやすい概念かもしれません。子育てを通じて、愛する子どもたちを自立させることの大切さを学んだ経験があるからです。子どもを愛するからこそ、いつまでも手元に置いておくのではなく、自分の足で歩けるように育てる。結婚における愛も、それと同じような性質を持っているのです。
実際に、長く幸せな結婚生活を送っているご夫婦を見ると、お互いの趣味や興味を尊重し合い、時には別々の活動を楽しんでいることが多いものです。奥様は友人たちとの旅行を楽しみ、ご主人は古い仲間との釣りに出かける。そうして、それぞれが充実した時間を過ごして家に帰ってくると、お互いの体験を分かち合う楽しみがある。
「主人が釣りから帰ってくると、嬉しそうにその日の出来事を話してくれるんです。私も友人たちとの旅行の写真を見せて、楽しかった話をします。お互いが別々の楽しみを持っているからこそ、一緒にいる時間がより特別に感じられるんでしょうね」
そう話してくださった70代の女性の表情は、本当に穏やかで幸せそうでした。これが「自由を祝福する」ということの実践例なのでしょう。
愛は決意であり約束である
心理学者のエーリッヒ・フロムは、「誰かを愛するというのは、激しい感情ではなく決意であり、約束である」という深遠な言葉を残しています。
若い頃の恋愛は、確かに激しい感情に支配されることが多いものです。相手のことを考えるだけで胸がドキドキし、一日中その人のことばかり考えてしまう。そんな情熱的な感情が恋愛の醍醐味でもあります。
しかし、結婚生活の現実は、毎日が特別な感動に満ちているわけではありません。朝起きて、仕事をして、食事をして、時には体調を崩したり、お互いに機嫌の悪い日もある。そんな平凡で、時には困難な日常を共に過ごし続けることが結婚なのです。
そんな時に支えになるのは、激しい恋愛感情ではなく、「この人と一緒に人生を歩んでいこう」という静かな決意と、「どんなことがあっても支え合おう」という約束なのです。
これは特に、人生の後半を迎えたシニア世代には切実に理解できる真実でしょう。病気や介護、親の看取り、経済的な困難など、様々な試練を乗り越える中で、お互いを支え合ってきた経験があるからです。
「主人が脳梗塞で倒れた時、正直言って戸惑いもありました。でも、『この人と約束したんだ』という気持ちが私を支えてくれました。リハビリに付き添い、介護をするのは決して楽ではありませんでしたが、それでも『この人を支えよう』という気持ちは変わりませんでした」
そう話してくださった女性の言葉からは、激しい恋愛感情とは異なる、しかしより深く確かな愛を感じることができます。
相性の悪さを乗り越える知恵
心理学者のジョージ・レビンガーは、「幸せな結婚の秘訣は、どれだけ相性が良いかより、相性の悪さをどうやって乗り越えるかにある」という現実的でありながら希望に満ちた言葉を残しています。
結婚前には、お互いの共通点や相性の良さばかりに目が向きがちです。「趣味が同じ」「価値観が似ている」「一緒にいて楽しい」といった相性の良さは、確かに結婚の重要な要素です。
しかし、実際に結婚生活を始めてみると、思いもよらない違いや相性の悪い部分が見えてきます。お金の使い方、時間の使い方、家事のやり方、親戚付き合いの考え方など、様々な場面で「こんなに違うとは思わなかった」という発見があります。
そんな時、相性の悪さを理由に諦めてしまうのか、それとも工夫と努力によって乗り越えていくのかが、結婚生活の成功を左右します。
興味深いエピソードとして、ある研究者が調べたところによると、離婚したカップルと長続きしているカップルの間に、実は問題の種類や数にそれほど大きな違いはないということが分かったそうです。違いは、その問題にどう向き合うかの姿勢だったのです。
長続きしているカップルは、問題が起きた時に相手を責めるのではなく、「どうやって解決しようか」と建設的に考える傾向があります。また、完璧な解決を求めるのではなく、お互いが納得できる妥協点を見つけるのが上手です。
「私と主人は、お金の使い方が全く違っていました。私は計画的に貯金をしたいタイプ、主人は今を楽しみたいタイプ。最初は喧嘩ばかりでしたが、話し合いを重ねて、月の予算を決めて、その範囲内なら自由に使う、貯金の目標も一緒に決める、ということにしました。完璧ではありませんが、お互いが納得できる方法です」
そう話してくださった方の経験談は、相性の悪さを乗り越える具体的な知恵を示してくれています。
実体験から学ぶ結婚の真実
理論や名言だけでなく、実際の体験談から学べることも多いものです。ここで、様々な年代の方々の結婚に関する体験談を通じて、結婚の多様な側面を見てみましょう。
60代の女性の方から聞いた話です。結婚当初、夫婦の性格があまりにも違いすぎて、毎日のように衝突していたそうです。几帳面で時間に正確な奥様と、おおらかで時間にルーズなご主人。最初の数年間は、本当に「なぜこの人と結婚したんだろう」と思うほど大変だったと振り返ります。
「でも、ある時気づいたんです。主人の時間にルーズなところは確かに困りものですが、その反面、私が失敗した時も『まあ、いいじゃないか』と寛容に受け止めてくれる。私の几帳面さは主人には窮屈かもしれませんが、家計管理や子どもの教育では頼りにされている。お互いの短所だと思っていたことが、実は長所でもあったんです」
この方は、今では夫婦の違いを「お互いを補い合う関係」として捉えているそうです。「年を重ねても、この人となら話していて楽しい」と感じるのは、まさにニーチェの言葉通りの関係性を築かれたのでしょう。
別の方からは、こんな話を聞きました。50代で再婚された男性の体験談です。
「最初の結婚では、恋愛の延長線上で結婚を決めました。情熱的で楽しい時期もありましたが、現実的な問題に直面した時に、お互いに寛容になれませんでした。今の妻との関係は、最初からゆっくりと築いていきました。『結婚してからは片目を閉じる』という言葉の意味が、今度はよく理解できました」
この方は、二度目の結婚で学んだ最も大切なことは、「相手を変えようとしないこと」だったと話します。「相手の考え方や習慣を自分の思い通りに変えようとするのではなく、違いを違いとして受け入れる。そして、どうしても譲れない部分については、時間をかけて話し合う。急がず、焦らず、お互いを理解していく時間を大切にすることを学びました」
また、70代のご夫婦からは、こんな心温まる話を聞きました。
「結婚45年になりますが、今でも毎朝『おはよう』と言い合い、夜には『お疲れさま』と声をかけ合います。当たり前のことのようですが、これを続けることで、お互いの存在を確認し合っているんです。言葉にすると単純ですが、相手がいることへの感謝の気持ちを忘れないことが、長続きの秘訣かもしれません」
この方たちの話からは、結婚生活における日常的な優しさの積み重ねの大切さが伝わってきます。特別なことをする必要はない、ただし、当たり前のことを当たり前と思わず、感謝の気持ちを持ち続けることの価値を教えてくれます。
結婚前の準備期間の大切さ
結婚を控えた若いカップルからの相談を受けた際、多くのシニア世代の方々がアドバイスするのは、「急がずじっくりと準備期間を大切にすること」です。
現代は、恋愛から結婚への移行が早くなっている傾向があります。出会ってから数ヶ月で結婚を決めるカップルも珍しくありません。しかし、人生経験豊富なシニア世代の視点からすると、もう少し時間をかけて相手を知ることの重要性が見えてきます。
「私たちの時代は、お見合いから結婚までも今より時間をかけていました。その間に、相手の家族と会ったり、一緒に様々な場面を経験したり、お互いの価値観をゆっくりと確認していく時間がありました。今思えば、それはとても大切な期間だったと思います」
そう話してくださった80代の女性は、孫の結婚について相談を受けた時に、こうアドバイスしたそうです。
「恋愛感情が高まっている時は、相手の良いところばかりが目についてしまうものです。でも、結婚は恋愛よりもずっと現実的な生活です。お互いが疲れている時、機嫌の悪い時、困難に直面した時、そういった場面での相手の反応も見ておくことが大切です」
このアドバイスは決してネガティブなものではありません。相手の弱い部分や困難な面も含めて愛することができるかどうかを確認することで、より強固な絆を築くことができるという、経験に基づいた知恵なのです。
シニア世代の再婚という新たな挑戦
最近では、シニア世代での再婚も増えています。配偶者を亡くした方や、離婚を経験された方が、人生の後半で新たなパートナーと出会い、再び結婚生活を始めるケースです。
シニア世代の再婚には、若い頃の結婚とは異なる特徴があります。まず、お互いに人生経験が豊富であるため、相手に対して現実的な期待を持つことができます。完璧なパートナーを求めるのではなく、お互いの長所と短所を理解した上で、一緒に残りの人生を歩んでいくことができるかどうかを冷静に判断することができます。
また、子育てや仕事からも解放され、純粋に二人の関係に集中することができるのも特徴です。若い頃の結婚では、子どものこと、仕事のこと、親の介護のことなど、様々な課題に同時に取り組む必要がありましたが、シニア世代の再婚では、パートナーシップそのものに焦点を当てることができます。
75歳で再婚された女性の話をお聞きしたことがあります。
「夫を亡くして10年が経った頃、地域のボランティア活動で知り合った男性と親しくなりました。最初は友人として付き合っていましたが、一緒にいると心が安らぐことに気づきました。若い頃のような激しい恋愛感情ではありませんが、この方となら残りの人生を穏やかに過ごせると思ったんです」
この方は、再婚について家族から反対されることもあったそうですが、「人生は一度きり。最後まで自分らしく生きたい」という強い意志で決断されました。
「今の夫との関係は、最初の結婚とは全く違います。お互いに自立した大人同士として、対等な関係を築いています。依存し合うのではなく、支え合う。そんな関係です」
シニア世代の再婚は、従来の結婚観にとらわれない、新しい形のパートナーシップの可能性を示してくれています。
結婚生活における日常の知恵
長い結婚生活を送る中で、多くのシニア世代が身につけてきた日常的な知恵があります。これらは、理論的な話ではなく、実際の生活の中で培われた実用的なノウハウです。
まず、喧嘩やトラブルの際の対処法について。多くの方が口を揃えておっしゃるのは、「その日のうちに解決する」ということです。問題を翌日に持ち越すと、感情がこじれてしまい、解決がより困難になってしまいます。
「私たちは結婚以来、どんなに喧嘩をしても、寝る前には必ず話し合うことにしています。時には朝まで話し込むこともありましたが、納得いくまで話し合うことで、同じ問題を繰り返すことがなくなりました」
また、お互いの趣味や関心事について理解を示すことの大切さも、多くの方が強調されます。自分が興味のないことであっても、パートナーが大切にしていることなら、関心を持とうとする姿勢が重要だということです。
「主人は鉄道が大好きで、休日には撮影に出かけることが多かったんです。最初は『また電車の写真』と思っていましたが、ある時主人の写真を見せてもらったら、とても美しくて感動しました。それからは、主人の写真展があると一緒に見に行くようになりました。主人も嬉しそうですし、私も新しい世界を知ることができて楽しいです」
さらに、感謝の気持ちを言葉にして伝えることの重要性も、多くの経験豊富なご夫婦が実践されています。長い付き合いになると、相手への感謝を当たり前のこととして、言葉にしなくなってしまいがちです。しかし、「ありがとう」「お疲れさま」「美味しかった」といった簡単な言葉でも、継続して伝えることで関係性が良好に保たれます。
健康管理とパートナーシップ
シニア世代の結婚生活では、お互いの健康管理が重要なテーマになります。若い頃には考えもしなかった病気や身体の衰えに対して、どのように支え合っていくかは、結婚生活の質を大きく左右します。
多くのシニアカップルが実践しているのは、定期的な健康チェックを一緒に行うことです。健康診断を同じ日に受ける、散歩を日課にする、食事の管理を一緒に行うなど、健康維持を共通の目標として取り組むことで、自然と絆が深まります。
「主人が糖尿病と診断されてから、私も一緒に食事療法を始めました。最初は大変でしたが、一緒に健康的な料理を研究したり、ウォーキングを日課にしたりすることで、むしろ夫婦の時間が増えました。今では二人とも以前より健康になって、医師にも驚かれています」
このような体験談からは、困難な状況も二人で取り組むことで、より強い絆につながることが分かります。
また、将来への不安を分かち合うことも、シニア世代の結婚生活では重要です。介護の問題、経済的な不安、子どもたちのことなど、様々な心配事がありますが、一人で抱え込むのではなく、パートナーと共有することで心の負担が軽くなります。
「将来のことを考えると不安になることもありますが、主人と『一緒に乗り越えよう』と話し合うことで、不安よりも希望の方が大きくなります。一人だったら耐えられないことも、二人なら何とかなる気がします」
孫との関係と夫婦の絆
シニア世代の結婚生活において、孫との関係は特別な喜びをもたらしてくれます。共通の孫を可愛がることで、夫婦の絆がさらに深まるケースも多く見られます。
「孫が生まれてから、主人の優しい面をさらに多く見るようになりました。孫と遊んでいる時の主人の表情は、若い頃に戻ったようで、とても微笑ましいです。孫の成長を一緒に見守ることで、夫婦の会話も増えました」
また、孫の世話を通じて、改めてお互いの良いところを発見することもあります。子育てを経験した時とは異なり、孫との関係では余裕を持って接することができるため、パートナーの新しい一面を見ることができます。
ただし、孫との関係で意見が合わない場合もあります。教育方針や接し方について、夫婦で考え方が違うこともありますが、そんな時こそ「相手の孤独を守る」という考え方が活かされます。自分の考えを押し付けるのではなく、相手の考え方も尊重しながら、孫にとって最善の方法を一緒に考えることが大切です。
人生の終盤における結婚の意味
人生の終盤を迎えたシニア世代にとって、結婚の意味は若い頃とは大きく異なってきます。将来への夢や目標を共有するというより、これまで歩んできた人生を共に振り返り、残りの時間を如何に充実して過ごすかを考えることが中心になります。
長年連れ添ったパートナーとの関係では、言葉に出さなくても分かり合える深いつながりが育まれています。若い頃には「もっと分かってほしい」「もっとコミュニケーションを取りたい」と思っていたかもしれませんが、年を重ねると、静かな理解と穏やかな共存の価値が分かってきます。
「今では、主人と一緒にいても、お互い別々のことをしていることが多いんです。主人は新聞を読み、私は編み物をする。でも、同じ空間にいるだけで安心感があります。若い頃のように常に話をしていなくても、つながっている感覚があるんです」
このような関係性は、まさに北杜夫さんが言う「相手の孤独を守り続ける」ということの実践でしょう。お互いの個性と独立性を尊重しながら、同時に深い愛情でつながっている。これが成熟した結婚関係の姿なのかもしれません。
また、人生の終盤における結婚は、死に対する不安を和らげてくれる意味もあります。一人で人生の最後を迎えることへの恐怖は、多くの人が抱える自然な感情です。しかし、信頼できるパートナーがいることで、その不安が大きく軽減されます。
「お互いに『先に逝く者は、後に残る者を見守る』と約束しています。この約束があることで、死への恐怖がずいぶんと和らぎました。最期の時まで、二人でいられることの幸せを感じています」