人生の後半を迎えて、パートナーとの関係に悩みを抱えている方、いらっしゃいませんか。長年連れ添ったはずなのに、最近どこかすれ違いを感じる。あるいは、相手の心が自分から離れているような気がする。そんな不安を感じている方に、今日は少しお話をさせていただきたいと思います。
これまで何十年も一緒に歩んできた道のりを思うと、今さらこんな悩みを抱えるなんて、と戸惑いを感じるかもしれません。でも、大丈夫です。人間関係は何歳になっても変化していくものですし、その変化に向き合うことは決して遅すぎることはありません。むしろ、これまでの人生経験があるからこそ、より深く、より誠実に関係を見つめ直すことができるのです。
心が離れていく、その小さな始まり
長年一緒にいると、お互いのことが「わかりきった」ような気持ちになってしまうことがあります。朝起きてから夜寝るまで、ほとんど会話もなく、それぞれが自分の世界で過ごしている。そんな日常が当たり前になっていませんか。
70歳になる男性の話を聞いたことがあります。定年退職してから、妻との会話が極端に減ってしまったそうです。仕事をしている間は、仕事の話や愚痴を聞いてもらっていたけれど、退職後は話すこともなくなった。妻は妻で、長年築いてきた友人関係や趣味のサークルがあって、忙しそうにしている。家にいても、二人とも別々の部屋でテレビを見ていることが多くなったと言います。
そんなある日、妻が最近やけに外出が多いことに気づいたそうです。「今日も友達と出かける」と言って、きれいな服を着て出かけていく。以前はそんなに化粧もしなかったのに、最近は外出前に鏡の前で時間をかけている。帰ってくると、なんだか嬉しそうで、表情も明るい。
彼は不安になりました。「もしかして、他に誰か気になる人でもできたのだろうか」と。でも、長年連れ添った妻を疑うのも辛くて、何も言えずにいたそうです。心の中では、寂しさと不安と、少しの怒りがぐるぐると渦巻いていたと言います。
関係が変わる三つの段階
実は、パートナーの心が離れていくときには、いくつかの段階があります。これを知っておくことで、早い段階で気づいて、手を打つことができるのです。
最初の段階は、心の中に「もやもや」が生まれる時です。これは、日常の中で感じる小さな不満や寂しさから始まります。「この人は私の話を聞いてくれない」「最近、二人で笑うことがなくなった」「私のことを、もう女性として見てくれていないんじゃないか」。そんな思いが、少しずつ心の中に積もっていきます。
68歳の女性の話です。夫は退職後、ずっと家にいるようになりました。でも、何か手伝ってくれるわけでもなく、ただソファに座ってテレビを見ているだけ。彼女が話しかけても、「ああ」「うん」という返事だけ。何十年も家事をしてきた疲れもあって、「私はこの人にとって、家政婦みたいなものなのかな」と感じるようになったそうです。
そんな時、地域のボランティア活動で知り合った男性が、彼女の話を真剣に聞いてくれました。「それは大変でしたね」「あなたは本当によく頑張ってこられたんですね」。そんな言葉をかけられて、久しぶりに自分が「一人の人間」として見てもらえた気がしたと言います。
次の段階は、その「もやもや」が具体的な形を持ち始める時です。例えば、他の誰かと話している時の方が楽しい、と感じるようになる。あるいは、その人のことを考える時間が増えてくる。家にいても、スマートフォンでメッセージのやり取りをすることが増えたり、次に会う約束を楽しみにしたりするようになります。
面白いエピソードを一つお話しすると、75歳の男性が、趣味の俳句の会で知り合った女性と、毎日のように俳句のやり取りをするようになったそうです。最初は本当に俳句の話だけだったのですが、だんだんと季節の話や、思い出話、今日あった出来事などを共有するようになった。ある日、妻から「あなた、最近スマホばかり見てるわね。誰とそんなにメールしてるの?」と聞かれて、ハッとしたそうです。「俳句の先生と、俳句の話を...」と答えたものの、心の中では後ろめたさを感じたと言います。
最後の段階は、現実的な選択を考え始める時です。「この人とだったら、残りの人生をもっと楽しく過ごせるのではないか」「今のパートナーとは、もう修復できないのではないか」。そんな思いが頭をよぎるようになります。
実際に、どうやって関係を取り戻すか
もし、あなたがパートナーの心が離れていると感じているなら、あるいは自分自身の心が揺れているなら、まず大切なのは「話し合うこと」です。でも、これが一番難しいんですよね。
長年一緒にいると、「今さら何を話せばいいのか」「変に思われるんじゃないか」という気持ちになります。でも、黙っていても何も変わりません。むしろ、溝は深くなるばかりです。
73歳の男性は、妻の様子がおかしいことに気づいて、思い切って話しかけたそうです。「最近、何か悩んでることある?俺、何か気に障ることしたかな」。最初、妻は「別に何もないわよ」と言っていましたが、彼が「いや、本当に心配してるんだ。俺たち、長いこと一緒にいるけど、最近なんかうまくいってない気がして」と正直に伝えたら、妻も心を開いてくれたそうです。
「あなた、退職してからずっと家にいるでしょ。でも、私の話は全然聞いてくれないし、何かしようって誘っても『面倒くさい』って言うし。私、なんだか一人ぼっちみたいで寂しかった」。そう言われて、彼は初めて気づいたそうです。自分が妻を、どれだけ「いて当たり前の存在」として扱っていたか。
それから二人は、毎週一回、近所のカフェでお茶をする時間を作ることにしたそうです。家だとテレビをつけてしまったり、家事が気になったりするから、あえて外に出る。そこで、お互いの一週間の出来事を話したり、昔の思い出話をしたり、これからやりてみいことを相談したり。最初はぎこちなかったそうですが、だんだんと自然に話せるようになって、今では二人の大切な時間になっているそうです。
感謝の気持ちを、言葉にする
もう一つ大切なのは、「ありがとう」を言葉にすることです。長年一緒にいると、相手がしてくれることを「当たり前」だと思ってしまいがちです。でも、当たり前のことなんて、本当は何一つないんですよね。
65歳の女性は、夫が毎朝ゴミ出しをしてくれることを、ずっと「男なんだから当然」だと思っていたそうです。でも、友人の一人が「うちの夫は何もしてくれない」と愚痴を聞いて、改めて「うちの夫は、実は優しいのかもしれない」と気づいたと言います。
次の朝、彼女は夫に「いつもゴミ出し、ありがとうね。あなたがやってくれるから、私は助かってる」と伝えたそうです。夫は最初、驚いた顔をしましたが、その後照れくさそうに笑って「いや、当たり前のことだから」と言ったそうです。でも、その日の夕方、夫は珍しく花を買って帰ってきたそうです。「通りすがりに売ってたから」と言いながら、嬉しそうに渡してくれたと言います。
小さな感謝の言葉が、関係を温かくしてくれる。それを改めて実感したと、彼女は話してくれました。
もし、すでに心が離れてしまっていたら
でも、正直にお話しすると、時にはどんなに努力しても、関係を元に戻せないこともあります。相手がもう、関係を修復する気持ちを持っていない場合です。
何度話し合おうとしても拒否される。約束したことを守ってくれない。明らかに嘘をついている。そんな状態が続くなら、無理に関係を続けようとするのではなく、自分自身の幸せを考える時かもしれません。
72歳の女性の話です。夫が他の女性と親しくしていることがわかり、何度も話し合いを試みたそうです。でも、夫は「干渉するな」と言うだけで、向き合ってくれなかった。彼女は悩んだ末、カウンセリングを受けることにしたそうです。
カウンセラーと話す中で、彼女は気づいたそうです。「私は、夫がいないと生きていけないと思い込んでいた。でも、それは本当だろうか」と。それから彼女は、自分の人生を自分で決めることにしました。趣味のコーラスに力を入れ、友人との交流を深め、やりたかった陶芸も始めた。
一年後、彼女は言いました。「夫のことは、もう気にならなくなった。彼がどうするかは、彼の問題。私は私の人生を、残りの時間を、楽しく充実したものにしたい」。今、彼女は生き生きと自分の人生を歩んでいるそうです。