人生の後半を迎えた今だからこそ、大切な人との時間をもっと深く味わいたい。そう思われる方も多いのではないでしょうか。今日は、海外と日本を結ぶ遠距離恋愛について、温かくお話しさせていただきます。若い方だけでなく、シニア世代の方々にも、新しい出会いや再会の機会が広がっている時代です。
最近では、海外にお住まいのご家族を訪ねたり、趣味のグループで知り合った海外の方と親しくなったり、昔の友人と何十年ぶりに再会したりと、国境を越えた人との繋がりが増えています。中には、そうした出会いから恋愛に発展するケースも珍しくありません。配偶者を亡くされた後、新しいパートナーと出会った方、長年の友人との関係が深まった方。人生に遅すぎるということはないんですね。
ただ、海外との遠距離恋愛には特有の課題があります。でも、それを乗り越えることで得られる喜びもまた格別なんです。ゆっくりと、一緒に考えていきましょう。
まず、時差の問題があります。これは本当に大きな課題ですね。アメリカの東海岸なら日本との時差は13時間。こちらが朝を迎える頃、向こうは前日の夜。ヨーロッパなら6時間から8時間、オーストラリアなら1時間から2時間ほどの差があります。
若い頃なら夜更かしもできたでしょうが、私たちの年齢になると、睡眠のリズムを崩すのは体に堪えますよね。「今日は相手に合わせて夜中に電話しよう」と思っても、翌日の疲れが心配です。朝早く起きる習慣のある方なら、早朝に連絡を取るという手もありますが、それも毎日となると負担になります。
私の知り合いの方で、70代の女性がいらっしゃいます。奈美子さんとお呼びしましょう。奈美子さんは5年前にご主人を亡くされ、寂しい日々を送っていました。娘さんの勧めでオンラインの俳句サークルに参加したところ、そこでカナダ在住の日本人男性、隆さんと知り合ったんです。
隆さんは若い頃にカナダに移住し、長年現地で仕事をされていました。奥様を10年前に亡くされ、一人暮らしをされていました。お二人は俳句という共通の趣味を通じて親しくなり、サークルの後もメールでやり取りするようになりました。季節の話、孫の話、昔の思い出話。そうしているうちに、お互いを特別に思うようになっていったそうです。
でも、カナダと日本の時差は17時間。ほぼ昼夜逆転です。奈美子さんが朝食を取る時間に、隆さんは前日の夕方。これには最初、本当に困ったそうです。
奈美子さんは娘さんに相談しました。娘さんは「お母さん、無理して夜中に起きたりしないで。メールでゆっくりやり取りすればいいじゃない」とアドバイスしてくれました。そこでお二人は、毎日決まった時間にメールを書くことにしたんです。奈美子さんは朝食後、隆さんは夕食後。お互いの生活リズムを大切にしながら、その日あったこと、感じたことを丁寧に綴る。急いで返事をする必要はない。そんなゆったりとした交流が、かえって心地よかったそうです。
「若い頃のように、すぐに返事が来ないと不安になるなんてこともないの。相手も自分も、それぞれの生活があることを理解しているから。むしろ、手紙のようにじっくり書けるメールの方が、気持ちが伝わる気がするわ」と奈美子さんは笑顔で話してくださいました。
コミュニケーションの方法も、私たちの年代には考えどころですね。若い方はビデオ通話が当たり前のようですが、スマートフォンやパソコンの操作に慣れていない方もいらっしゃるでしょう。画面に自分の顔が映るのも、最初は抵抗があるかもしれません。
でも、一度使い方を覚えてしまえば、これほど便利なものはありません。相手の顔を見ながら話せるって、本当に素晴らしいことです。表情が見えると、言葉では伝わりにくい微妙な気持ちも分かり合えます。
ここで少しお話がそれますが、面白いエピソードがあります。ある80代の男性が、初めてビデオ通話を使ったときのこと。アメリカにいる孫と話すために、息子さんに設定してもらったそうです。画面に孫の顔が映ったとき、思わず画面に向かって手を伸ばして「大きくなったな」と頭を撫でようとしたんだとか。もちろん画面を触るだけなんですけどね。でも、その気持ち、とてもよく分かります。テクノロジーが発達しても、人の温かい気持ちは変わらないんですよね。
さて、遠距離恋愛で一番辛いのは、やはり会えないことかもしれません。若い頃なら週末にちょっと会いに行くこともできたでしょうが、海外となると簡単にはいきません。国際線の航空券は高額ですし、長時間のフライトは体力的にも負担です。年に一度会えればいい方、という場合も多いでしょう。
でも、会えない時間があるからこそ、会えたときの喜びは何倍にもなるんです。
奈美子さんと隆さんは、メールでのやり取りを1年続けた後、ついに会うことを決めました。隆さんが日本に一時帰国することになったんです。空港で再会したとき、お二人とも緊張で胸がいっぱいだったそうです。画面越しでしか見たことがない相手と、実際に会う。握手をした瞬間、お二人とも涙ぐんでしまったそうです。
「もう若くないから、恋愛なんて恥ずかしいと思っていたの。でも、この歳になっても、心がこんなに温かくなることがあるんだって気づいたわ」奈美子さんの目には涙が光っていました。
一週間の滞在中、お二人は京都や鎌倉を訪れました。若いカップルのように走り回ることはできませんが、ゆっくりと歩きながら、景色を楽しみ、お茶を飲み、語り合う。そんな時間が、何より贅沢だったそうです。
遠距離恋愛を続けるには、信頼が何より大事です。若い頃のように嫉妬に駆られることは少ないかもしれませんが、それでも不安はあります。「相手は本当に私のことを大切に思ってくれているのかしら」「向こうで他に誰かができたらどうしよう」そんな心配が頭をよぎることもあるでしょう。
だからこそ、日々の小さなコミュニケーションが大切なんです。「今日は庭の花が綺麗に咲いたよ」「孫が遊びに来て賑やかだった」「今日読んだ本が面白かった」。そんな何気ない日常を共有することで、相手の生活が見えてきます。お互いの存在を日々感じることができるんです。
次に会う日を決めておくことも、モチベーションになります。「来年の春にまた会おうね」「次は私がそちらに行くわ」そんな約束があると、その日に向けて頑張れます。カレンダーに印をつけて、毎日それを眺めるのも楽しいものです。
大阪に住む72歳の男性、健一さんの話もお聞きしました。健一さんは3年前に奥様を病気で亡くされ、一人で暮らしていました。息子さん家族が心配して頻繁に訪ねてきてくれましたが、やはり寂しさは埋まりませんでした。
ある日、昔の友人から連絡がありました。50年前、健一さんが学生時代に留学していたイギリスで知り合った日本人女性、由紀子さんでした。由紀子さんは現地で結婚し、ずっとイギリスで暮らしていましたが、ご主人を亡くされて一人になっていたそうです。フェイスブックで健一さんを見つけ、「お元気ですか」とメッセージを送ってきたんです。
最初は昔話をするだけでした。「あの頃は若かったね」「あのレストラン、まだあるのかな」そんな他愛のない会話から始まりました。でも、メッセージを交わすうちに、健一さんは由紀子さんのことを意識するようになっていました。
健一さんは息子さんに相談しました。「お父さんが幸せならいいんじゃない。年齢は関係ないよ」息子さんの言葉に背中を押され、健一さんは由紀子さんに気持ちを伝えました。「もう一度会いたい」と。
由紀子さんも同じ気持ちでした。お二人は翌年、イギリスで再会しました。50年ぶりの再会。お互いに年を取り、容姿は変わっていましたが、不思議と昔のままの感覚がありました。「君の笑顔は変わらないね」健一さんの言葉に、由紀子さんは照れくさそうに笑いました。
今、お二人は年に2回、日本とイギリスを行き来しています。時差は8時間ありますが、健一さんは早起きが得意なので、朝の5時に起きて由紀子さんと電話で話すのが日課になっています。由紀子さんにとっては夕方9時頃。ちょうどいい時間なんです。
「若い頃は、こんな恋愛は想像もしなかった。でも、人生の最後にこんな幸せが待っているなんて、思いもしなかったよ」健一さんの言葉には、深い感謝の気持ちが込められていました。
遠距離恋愛には、もちろん大変なこともあります。体調が悪いとき、そばにいてほしいと思っても会えない。寂しさに耐えられなくなることもあるでしょう。通信費や渡航費の負担も決して小さくありません。年金生活の中で、そうした出費は考えどころです。
それでも、多くの方が「それでも続けたい」とおっしゃいます。なぜなら、心の繋がりがあるから。物理的な距離があっても、心は近くにいると感じられるから。
福岡に住む68歳の女性、さち子さんは、オーストラリアに住む昔の恋人と40年ぶりに再会しました。若い頃、さち子さんは親の反対で別れを選びました。彼はオーストラリアに渡り、現地で家庭を持ちました。さち子さんも日本で結婚し、子供を育てました。
お互いにパートナーを亡くした後、共通の友人を通じて再び連絡を取り合うようになりました。「もう一度会いたい」という気持ちは、お二人とも同じでした。
再会したとき、40年の時間を超えて、若い頃の気持ちが蘇ってきました。でも、もう若くはない。さち子さんには日本に家族がいるし、彼にはオーストラリアに子供や孫がいます。どちらかが移住するのは現実的ではありませんでした。
それでも、お二人は遠距離恋愛を選びました。年に一度、どちらかが訪ねる。それ以外の時間は、メールや電話で繋がっている。完璧ではないかもしれないけれど、これが今の自分たちにとって最良の形だと気づいたんです。
「若い頃のように一緒に暮らせないのは寂しい。でも、この歳になって、もう一度恋をできるって、本当に幸せなこと。毎日、彼からのメールを楽しみに生きているの」さち子さんの表情は、少女のように輝いていました。
遠距離恋愛を成功させるコツは、いくつかあります。
まず、定期的に連絡を取ることです。毎日である必要はありません。お互いの生活リズムに合わせて、無理のない頻度で。大切なのは、「繋がっている」という実感を持ち続けることです。
次に、将来の計画を話し合うことです。「このままずっと遠距離を続けるのか」「いずれはどちらかが移住するのか」「それとも年に数回会うだけで満足するのか」。正解はありません。お二人にとって最善の形を、一緒に探していくことが大切です。
小さなサプライズも効果的です。手紙を送る、小さなプレゼントを贈る。若い頃のような派手なものでなくていいんです。手作りのお菓子、地元の写真、押し花。そんな心のこもったものが、相手を喜ばせます。
国際郵便は時間がかかりますが、だからこそ届いたときの喜びは格別です。「あなたのために時間をかけて準備した」という気持ちが伝わるんですね。
そして何より、お互いの生活を尊重することです。私たちの年代には、それぞれに築いてきた生活があります。家族、友人、趣味、地域との繋がり。それらを犠牲にしてまで恋愛を優先する必要はありません。お互いの生活を大切にしながら、その中に相手の存在がある。そんなバランスが心地よいのかもしれません。
遠距離恋愛には、実はメリットもあるんです。お互いの時間を尊重できること。一人の時間も楽しめること。会えたときの喜びが何倍にもなること。そして、コミュニケーションをより深く、丁寧にできること。
若い頃のように毎日会う必要はない。会えない時間があるからこそ、会えたときの喜びが大きい。そう考えると、遠距離恋愛は私たちの年代に向いているのかもしれません。
もちろん、デメリットもあります。物理的な触れ合いの少なさ、寂しさ、体調が悪いときにそばにいてもらえないこと。渡航費や通信費の負担。価値観の変化やすれ違いの可能性。
でも、多くの方が「それでも価値がある」とおっしゃいます。人生の後半に、もう一度心が温かくなる体験ができる。それだけで、日々が輝いて見える。そう話してくださる方々の表情は、本当に幸せそうです。
大切なのは、焦らないことです。若い頃のように急いで結論を出す必要はありません。ゆっくりと、お互いのペースで関係を深めていけばいい。結婚という形にこだわる必要もありません。お互いが幸せを感じられる形を、一緒に見つけていけばいいんです。
もし、海外との遠距離恋愛を始めようか迷っている方がいらっしゃったら、ぜひ一歩踏み出してみてください。年齢は関係ありません。心が求めるものに素直になることは、いくつになっても素晴らしいことです。
周りの目を気にする必要もありません。「この歳で恋愛なんて」と思う必要はないんです。あなたの人生は、あなたのものです。幸せを感じる権利は、誰にでもあります。
そして、すでに遠距離恋愛をされている方。辛いとき、寂しいときもあるでしょう。でも、あなたは素晴らしい挑戦をしています。距離を超えて愛を育てているんです。それは、とても勇気のいることです。
手紙のように、ゆっくりと育てていく愛の形。それもまた、美しいものではないでしょうか。
遠く離れていても、心は繋がっている。朝起きて、相手からのメッセージを読む幸せ。画面越しに相手の顔を見る喜び。次に会える日を楽しみにする気持ち。それら全てが、あなたの人生を豊かにしてくれます。
人生に遅すぎるということはありません。60代でも、70代でも、80代でも。心が求めるものに素直になって、新しい一歩を踏み出してみてください。