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要介護4の認定を受けた方の余命

静かな電話の向こうから「お父さんが要介護4になりました。あとどれくらい...」と途切れる声。介護現場で20年以上相談に応じてきた私は、この質問が持つ重みを痛いほど理解しています。

要介護4の認定を受けると、多くのご家族が「残された時間」について考え始めます。それは単なる好奇心ではなく、大切な人との「最後の時間をどう過ごすか」という切実な問いでもあるのです。

「どれくらい」という数字だけでなく、「どう生きるか」という質にも目を向けながら読み進めていただければ幸いです。

要介護4の状態とは?まずは正しく理解しましょう

要介護4とは、介護保険制度における要介護度の区分の一つで、「ほぼ寝たきりに近い状態」と定義されています。具体的にどのような状態なのか、まずはしっかり理解しておきましょう。

日常生活の状況

要介護4では、日常生活動作(ADL)のほとんどで介助が必要になります。具体的には:

  • 食事:自力では困難で、介助が必要
  • 排泄:ほぼ全面的な介助が必要
  • 移動:ベッドから車椅子への移乗も介助が必要
  • 入浴:全面的な介助が必要
  • 着替え:全面的な介助が必要

「何もできなくなる」というわけではなく、例えば食事は介助があれば口から食べられる方も多いですし、声かけにはしっかり反応される方もいます。ただ、自力での生活は難しい状態であることは確かです。

私が担当していたある80代の女性は、要介護4でしたが、孫の名前を呼ぶと満面の笑みを見せてくれました。身体機能は低下していても、心の機能はしっかり残っていることも多いのです。

認知症の進行状況

要介護4の方は、認知症が進行しているケースも少なくありません。中等度から重度の認知症を伴うことが多く、以下のような症状が見られます:

  • 家族の顔や名前が分からなくなることがある
  • 時間や場所の認識が困難になる
  • 意思疎通が難しくなる場合がある
  • 感情の起伏が大きくなることも

ただし、認知症の進行度は個人差が大きく、要介護4でも認知機能がほぼ保たれている方もいらっしゃいます。「要介護4=重度認知症」と決めつけるのは避けたいところです。

医療的ケアの必要性

要介護4になると、医療的なケアが必要になるケースも増えてきます:

  • 経管栄養(胃ろうなど)が必要な場合
  • 褥瘡(床ずれ)の処置が必要
  • 痰の吸引が必要なケース
  • 服薬管理が必要

私のクライアントの一人は「医療的なケアが増えると在宅は難しいのでは?」と心配されていましたが、最近は訪問看護の充実により、かなり高度な医療的ケアも在宅で可能になっています。選択肢を狭めずに考えることが大切です。

要介護4の平均余命|医学的データから考える

ここからは、医学的なデータに基づいた要介護4の方の平均余命についてお伝えします。ただし、これはあくまで統計上の数字であり、個人差が非常に大きいことをご理解ください。

年齢別の平均余命データ

国立長寿医療研究センターや厚生労働省の調査などをもとにした、要介護4の方の平均余命の目安です:

70歳代の場合

  • 男性:約3~5年
  • 女性:約4~6年

80歳代の場合

  • 男性:約2~3年
  • 女性:約3~5年

90歳代の場合

  • 男性:約1~2年
  • 女性:約2~3年

これらの数字を見ると、女性の方が若干長生きする傾向があることが分かります。これは一般的な平均寿命の男女差と同様の傾向です。

ある家族会で「父は要介護4になって3年経ちました。もう長くないでしょうか...」と質問された方がいました。しかし実際には、その後さらに4年間を過ごされたケースもあります。統計は参考程度に考え、目の前の状態に向き合うことが大切です。

医学的エビデンス

これらの数字の根拠となる医学的なデータもいくつか紹介しておきましょう。

国立長寿医療研究センターの調査では、要介護4の認定を受けた方の5年生存率は約30~40%とされています。また、東京都健康長寿医療センターの研究では、要介護4・5の高齢者の死亡リスクは、自立している高齢者の約5.7倍という報告もあります。

寿命を縮める主な原因としては、以下のものが挙げられます:

  • 誤嚥性肺炎の発症
  • 褥瘡(床ずれ)からの感染症
  • 尿路感染症の繰り返し
  • 低栄養状態の長期化

私がケアマネージャーとして関わった事例でも、肺炎を繰り返すことで体力が徐々に低下していくケースが多く見られました。一方で、適切な予防策を講じることで、これらのリスクを大幅に減らすことも可能です。

データの限界と個人差

ここで重要なのは、これらの統計データはあくまで「平均的な目安」であり、個人差が非常に大きいという点です。実際に私が関わった事例では、要介護4になってから10年以上生きた方もいれば、数ヶ月で亡くなった方もいます。

余命に大きな個人差が生じる理由としては:

  • 基礎疾患の種類と重症度
  • もともとの体力や免疫力
  • 介護の質と医療的ケアの充実度
  • 本人の生きる意欲
  • 家族の関わり方

などが挙げられます。数字だけに囚われず、目の前の大切な人の状態をしっかり見つめることが何より大切なのです。

余命を左右する「5つの要素」

要介護4の方の余命には大きな個人差があることをお伝えしましたが、では具体的にどのような要素が寿命に影響するのでしょうか。長年の介護現場での経験と研究データから、特に重要な5つの要素についてご説明します。

1. 介護の質

介護の質は、余命に直接的な影響を与える重要な要素です。特に以下のようなケアが重要になります:

適切な体位交換 褥瘡(床ずれ)は重篤な感染症につながる可能性があります。理想的には2時間ごとの体位交換が推奨されていますが、それが難しい場合でも、エアマットの活用など工夫次第で褥瘡のリスクを下げることができます。

口腔ケア 口腔内の細菌が肺に入ることで生じる誤嚥性肺炎は、要介護高齢者の主な死因の一つです。実際、国内の研究では、専門的な口腔ケアを定期的に受けている高齢者は、肺炎の発症率が約40%低下するというデータもあります。

あるご家族は「毎食後の口腔ケアが面倒で、たまに省略していました」と話していましたが、ご本人が肺炎で入院されたことをきっかけに徹底されるようになり、その後の体調が安定したそうです。小さなケアの積み重ねが、大きな差を生むのです。

2. 栄養状態

栄養状態も余命に大きく関わる要素です。特に要介護4では、食事の形態や摂取方法も重要なポイントになります。

経口摂取と経管栄養 経口摂取(口から食べること)が可能な場合と、胃ろうなどの経管栄養が必要な場合では、生存率に差が出るというデータがあります。実は、重度の嚥下障害がある場合、適切に管理された胃ろうの方が、無理な経口摂取を続けるよりも平均余命が1.5倍長いというデータもあるのです。

ただし、これは「胃ろうが絶対に良い」ということではありません。食べる喜びも生活の質にとって重要であり、「どう生きるか」という本人・家族の価値観によって選択は変わってくるでしょう。

低栄養の予防 要介護状態では、必要なカロリーやタンパク質が不足しがちです。特にタンパク質は免疫機能や筋肉の維持に不可欠であり、不足すると感染症のリスクが高まります。栄養士による定期的な評価と、必要に応じた栄養補助食品の活用も検討する価値があります。

3. 認知症の進行度

認知症の症状、特に行動・心理症状(BPSD)の程度も、余命に影響を与えることが分かっています。

BPSDと寿命の関係 徘徊や暴言、昼夜逆転などの症状が強く出ている場合、そのストレスや身体的消耗から寿命が短くなる傾向があります。一方、穏やかに過ごせているケースでは、より長生きする傾向が見られます。

薬物療法の影響 認知症の症状を抑えるための向精神薬の過剰使用は、かえって寿命を縮める可能性があります。最近では、非薬物療法(環境調整や適切なコミュニケーション)を優先する流れが主流になっています。

あるグループホームでは、認知症の方に対して「その人の人生史に合わせたケア」を実践したところ、薬の使用量が減り、入居者の平均在所期間が1.5倍に延びたという例もあります。

4. 家族の関わり

意外に思われるかもしれませんが、家族の関わりも余命に影響を与える重要な要素です。

面会の頻度 ある研究では、週に1回以上の面会がある入所者は、面会の少ない入所者と比較して生存期間が約1.4倍長かったというデータがあります。これは孤独感の軽減や生きる意欲の維持に関係していると考えられています。

コミュニケーションの質 単に会いに行くだけでなく、どのようにコミュニケーションを取るかも重要です。認知症が進行していても、感情は残っています。名前を呼び、手を握り、思い出話をするなど、「あなたを大切に思っている」というメッセージが伝わるようなコミュニケーションが効果的です。

私がサポートしていた90代の男性は、毎週日曜に娘さんが面会に来ることを楽しみにしており、「お父さん、今日は何曜日?」と聞くと「日曜日!娘が来る日だよ」と答えていました。その方は施設の平均よりも長く生きました。

5. 基礎疾患

もちろん、もともと持っている病気(基礎疾患)も余命に大きく影響します。

複数疾患の影響 複数の慢性疾患を持つ場合、余命は平均で約2年短くなるというデータがあります。特に、以下の疾患は要介護状態での予後に影響します:

  • 心不全:急性増悪のリスクがある
  • 糖尿病:感染症のリスクや傷の治りに影響
  • 慢性腎臓病:水分・電解質バランスに影響
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD):呼吸機能に影響

定期的な医療管理 基礎疾患があっても、適切な医療管理により安定した状態を保つことができます。訪問診療やかかりつけ医との連携が重要になってきます。

ある医師は「要介護4でも、基礎疾患がコントロールできていれば、急変のリスクは大幅に下がる」と話していました。定期的な健康チェックと適切な医療ケアが、安定した日々を支える基盤となるのです。

【体験談】要介護4の親を持つ家族のリアルストーリー

ここからは、実際に要介護4の家族を介護し、看取った方々の体験談をご紹介します。統計やデータだけでは見えてこない、「現場のリアル」が伝わるかと思います。

【ケース1】「胃ろうで8年生きた父」(開始時82歳・Sさん)

「父が脳梗塞で倒れ、嚥下機能が失われて要介護4になりました。医師からは『胃ろうをしても余命2年程度』と言われましたが、父自身が『まだ生きたい』という意思を示したので、胃ろうを選択しました。

最初は不安でしたが、専門の訪問看護師に週3回来てもらい、毎日の栄養管理を徹底しました。体位交換も3時間おきに行い、褥瘡を作らないよう気をつけました。予想外だったのは、胃ろうになっても父の表情が豊かだったこと。孫の話をすると目を細めて笑うんです。

結局、父は胃ろう開始から8年間生きました。最期は特に苦しむこともなく、穏やかな老衰でした。医師からは『こんなに長生きするケースは稀』と言われましたが、やはり日々のケアの積み重ねが大切だったと思います。今は『父の希望を叶えられて良かった』と思っています。」

このケースから学べるのは、「専門家の予測も絶対ではない」ということ。適切なケアと本人の生きる意欲があれば、統計的な予測を超えて生きることも可能なのです。

【ケース2】「肺炎で急逝した母」(要介護4から1年半・Mさん)

「認知症が進行し、要介護4の認定を受けた母を、私と妹で交代で在宅介護していました。食事は刻み食を少しずつ食べられていたので、『まだまだ大丈夫』と思っていました。

ある日、いつも通り夕食を食べて就寝しましたが、翌朝様子を見に行くと息をしていませんでした。救急車を呼びましたが、すでに手遅れで...。後から医師に説明を受けると、おそらく少量の食物を誤嚥し、それが肺炎を引き起こしたとのこと。

今思うと、食事中にむせることがあっても、きちんと医師に相談していなかったのが悔やまれます。もっと口腔ケアを学び、食事の形態にも気を配るべきだったと後悔しています。突然のお別れでしたが、最期は自宅で家族に囲まれていたことだけが救いです。」

このケースは、誤嚥性肺炎のリスクをしっかり認識することの重要性を教えてくれます。症状が安定していても、小さな変化に気づき、専門家に相談する習慣が大切です。

【ケース3】「在宅介護で10年」(認知症+要介護4・Kさん)

「母が80歳で認知症と診断され、その後徐々に身体機能も低下し、85歳で要介護4になりました。施設への入所も考えましたが、母が『家がいい』と言うので、在宅介護を選択しました。

訪問介護・訪問看護・デイサービスなど、使えるサービスはすべて利用し、プロのヘルパーさんとも協力しながら介護しました。コツは『同じ時間に食事・排泄』のルーティンを作ることでした。時間を決めることで母の体調も安定し、介護する側も計画が立てやすくなります。

褥瘡予防のために、デイサービスがない日も必ず車椅子に座らせる時間を作り、手足のマッサージも欠かさず行いました。家族だけでは限界がありましたが、プロの力を借りることで何とか乗り切れました。

結局、母は95歳まで在宅で過ごし、最期は家族に見守られながら息を引き取りました。10年間の介護は長かったですが、『家で最期まで』という母の願いを叶えられたのは良かったと思います。」

このケースでは、在宅でも長期間の介護が可能であるということと、専門家と家族の協力体制の重要性が示されています。規則正しい生活リズムの確立も、安定した状態を維持するポイントです。

【ケース4】「施設でのターミナルケア」(要介護4から2年・Tさん)

「父が要介護4になった時、私は遠方に住んでおり、母一人では介護が難しい状況でした。悩んだ末、特別養護老人ホームに入所してもらうことにしました。

最初は罪悪感がありましたが、施設では24時間体制で専門的なケアが受けられ、父は穏やかに過ごしていました。月に2回は必ず面会に行き、スタッフとも良い関係を築けたと思います。

入所から1年半が経った頃、父の状態が急に悪化。施設から連絡を受け、駆けつけると、すでにターミナル期に入っていました。施設には看取り加算があったため、病院に移さず、慣れ親しんだ場所で最期を迎えられるようサポートしてもらいました。

父の最期の1週間、私は仕事を休んで付き添いましたが、施設のスタッフが父の好きな音楽をかけたり、丁寧な口腔ケアをしてくれたりと、本当に心のこもったケアをしてくれました。父は苦しむことなく、穏やかに旅立ちました。

施設を選んだことに後悔はありません。プロの手厚いケアのおかげで、父は安らかな最期を迎えられたと思います。」

このケースは、施設での看取りという選択肢も、決して悪いものではないことを示しています。家族の状況や距離などを考慮し、最適な環境を選ぶことが大切です。

寿命を延ばすための「3つのアドバイス」

これまでの医学的データや実際の体験談を踏まえ、要介護4の方の寿命を少しでも延ばし、また、その時間を質の高いものにするためのアドバイスをお伝えします。

1. 「寝たきり」にさせない工夫

要介護4になると「もう寝たきりでいいのでは」と思いがちですが、実は少しでも体を動かすことが、様々な合併症予防につながります。

週3回は車椅子に座らせる ベッドから起き上がり、姿勢を変えることで、肺機能が改善し、褥瘡予防にもなります。また、視界が広がることで脳への刺激にもなります。車椅子への移乗が難しいケースでも、ギャッジアップ(背もたれを起こす)だけでも効果があります。

簡単なリハビリ(手足のマッサージ) 関節が固まると、体位交換も難しくなり、さらに寝たきり状態が進みます。1日10分程度の簡単なマッサージや関節の曲げ伸ばしを行うだけでも、関節拘縮の予防につながります。

環境刺激の工夫 窓を開けて自然の音を聞かせる、好きな音楽をかける、家族の写真を見せるなど、五感への刺激も重要です。脳が活性化することで、生命力の維持につながります。

私のクライアントのある方は、要介護4の母親に毎日10分だけテレビの前の椅子に座ってもらい、一緒に昔のドラマを見る時間を作っていました。「その時間だけは母の表情が生き生きとする」と話していました。

2. 医療と介護の連携

医療と介護が別々に動くのではなく、緊密に連携することで、早期発見・早期対応が可能になります。

かかりつけ医と介護支援専門員の定期連絡 月に1回は情報共有の機会を持ち、小さな変化も見逃さない体制を作ることが理想的です。医師と介護職の「共通言語」を持つことで、より適切なケアにつながります。

3ヶ月に1回は栄養状態を検査 体重測定はもちろん、可能であれば血液検査などで栄養状態をチェックすることも重要です。低アルブミン血症などは感染症リスクを高めるため、早めの対応が必要です。

予防的な医療介入 「具合が悪くなってから」ではなく、「具合が悪くなる前」の医療介入が大切です。例えば、定期的な口腔ケアを歯科医師や歯科衛生士に依頼することで、誤嚥性肺炎のリスクを下げることができます。

多職種が参加するサービス担当者会議では、「単なる情報共有」にとどまらず、「この方の生活をどう支えるか」という視点での話し合いが大切です。

3. 家族のメンタルケア

介護は長期戦です。特に要介護4の方の介護は、身体的にも精神的にも負担が大きくなります。家族自身のケアも忘れてはいけません。

「いつか終わる」という覚悟を持つ 残酷に聞こえるかもしれませんが、「いつまで続くか分からない」と思うより、「いつか必ず終わる時間」と捉えることで、「今」を大切にできるようになります。覚悟があることで、後悔のない時間の使い方ができるのです。

レスパイトケア(ショートステイ)を活用 介護者が倒れては元も子もありません。定期的に休息を取ることも、長期戦を乗り切るためには必要です。「自分が休むと申し訳ない」という気持ちは捨て、積極的にレスパイトケアを利用しましょう。

同じ境遇の人との交流 介護者家族の会など、同じ経験をしている人との交流も大きな支えになります。「自分だけじゃない」という気持ちが、精神的な安定につながります。

ある家族会で出会った60代の女性は、「母の介護を5年続けてきて、もう限界かと思ったとき、家族会の先輩から『大変なのは今だけじゃない、必ず終わる時が来る』と言われて救われました。その言葉があったから、最期まで看取ることができました」と話していました。

知っておきたい「看取りのサイン」

要介護4の方の状態は、ある日突然変化することもあります。「もう少し時間があると思っていた」という声もよく聞きます。最期の時を少しでも穏やかに過ごすためにも、「看取りのサイン」を知っておくことは大切です。

数ヶ月前から現れるサイン

  • 徐々に食事量が減少する(通常の7割程度に)
  • 昼寝の時間が長くなる
  • 会話が減少する
  • 体重が緩やかに減少する

この段階では、無理に食事量を増やそうとするより、好きなものを少量ずつ、食べられるときに食べてもらうことが大切です。また、家族との時間を大切にし、思い出話をしたり、伝えたいことを伝える機会を作りましょう。

1ヶ月前頃に現れるサイン

  • 食事量が通常の50%以下に減少
  • 水分摂取量も減少
  • 傾眠傾向が強まる(起きている時間より寝ている時間の方が長い)
  • 尿量の減少

この段階になると、医療者と相談し、無理な延命治療について家族で話し合っておくことも必要かもしれません。また、遠方の家族には連絡を入れ、会いたい人には会える機会を作ることも検討すべきでしょう。

1週間前頃に現れるサイン

  • 呼びかけに反応しなくなる
  • ほとんど飲食ができなくなる
  • 手足が冷たくなる(末梢循環不全)
  • 呼吸の仕方が変わる

この段階では、医療的な処置よりも、本人の安楽を第一に考えるケアが中心になります。口腔内の乾燥を防ぐための保湿ケアや、体位の工夫などで、少しでも楽に過ごせるようサポートしましょう。

数時間前に現れるサイン

  • 呼吸が浅く不規則になる
  • 「チェーンストークス呼吸」と呼ばれる特徴的な呼吸パターン
  • 顔色の変化(蒼白や青紫色)
  • 意識レベルの低下

この時期は、静かに寄り添い、手を握るなどのスキンシップを大切にしましょう。聴覚は最後まで残ると言われているので、穏やかな声かけも意味があります。

私が関わったあるケースでは、臨終の場に間に合わなかった息子さんが「もっと早く知らせてほしかった」と悔やまれていました。変化に気づいたら、家族に早めに連絡することも大切です。

要介護4からの回復可能性|稀なケースも

ここまで、要介護4の方の余命について様々な角度から解説してきましたが、実は稀に「要介護4から回復する」ケースもあることをお伝えしておきたいと思います。

回復事例と共通点

全国の介護施設で働く専門職の情報によると、要介護4から要介護3以下に改善したケースには、いくつかの共通点があるようです:

  • 積極的なリハビリテーションを継続した
  • 栄養状態の改善に力を入れた
  • 家族の頻繁な訪問や関わりがあった
  • 本人に強い「回復したい」という意志があった

あるリハビリ病院の理学療法士は、「特に脳卒中で要介護4になった比較的若い方(60代後半)の場合、適切なリハビリと栄養管理で歩行器歩行まで回復したケースを何例か経験しています」と話していました。

「回復」の定義を広げる

ただし、ここで考えたいのは「回復」の定義です。歩けるようになる、自分で食事ができるようになるといった機能的な回復だけが「回復」ではありません。

例えば:

  • 以前は無表情だったのに、笑顔が増えた
  • 反応がなかったのに、声かけに応じるようになった
  • 食べられなかったのに、少量でも経口摂取ができるようになった

これらも十分に「回復」と呼べるのではないでしょうか。

ある特別養護老人ホームの施設長は「要介護度が変わらなくても、表情が豊かになったり、食事を楽しめるようになったりという『生活の質の向上』を目指したケアを大切にしています」と話していました。

数字や等級にとらわれず、その人らしい生活の質を高めることも、大切な「回復」の形なのかもしれません。