「お孫さんは何人いるの?」
シニア世代の集まりでよく聞かれるこの何気ない質問。多くの方にとっては会話の糸口でしかないかもしれませんが、孫がいない人にとっては複雑な感情を呼び起こすことがあります。
私の親友は先日、こんなことを言っていました。「同窓会に行くたび、みんな孫の写真を見せ合うの。私だけスマホをしまったままで、なんだか居心地が悪くなるのよね」と。
でも、本当はどうなのでしょう?孫がいないことは、必ずしも「寂しい」ことなのでしょうか?
今日は、孫がいない人の様々な気持ちに寄り添いながら、そんな方々が見つけている「別の形の幸せ」についてお話ししたいと思います。
実は私自身も孫がいませんが、それが必ずしも「欠けている」感覚ではなく、ただ「違う形の人生」なのだと感じています。この記事が、同じ立場の方の心に少しでも響けば嬉しいです。
多様な気持ち〜孫がいない人の本音とは
孫がいない理由は人それぞれ。子供がいない方、子供はいるけれど結婚や出産に至っていない方、様々です。そして、そんな状況に対する気持ちも実に多様なんですね。
自由と充実を楽しむ気持ち
「孫がいないことは、私にとって『選んだ自由』なの」
そう語るのは、Aさん(65歳)。結婚はしたものの、ご夫婦で子供を持つ選択をしなかったそうです。今はガーデニングや地域のボランティア活動に精を出す日々を送っています。
「若い頃は『子どもがいないと老後は寂しいわよ』って随分言われたわ。でも今は全然そんなことないの。孫がいない分、時間もお金も自由に使えるから、毎年夫と海外旅行に行ってるのよ。友達の孫の話を聞くのも微笑ましいけど、私には私の楽しみがあるから十分幸せよ」
Aさんの言葉には、自分の選択に自信と満足が感じられます。確かに、孫がいないことで時間や経済的な余裕が生まれ、趣味や旅行、社会活動などに力を注げる面はあるでしょう。
ちょっとした寂しさを感じる気持ち
一方で、子供はいるけれど孫に恵まれていないというケースもあります。Bさん(72歳)は、40代で独身の息子さんがいます。
「正直、孫がいたらどんな感じかな、って考えることはあるよ」とBさん。「親戚の集まりで、みんなが孫の話で盛り上がるとちょっと取り残された気分になることもある。でも、息子が自分の人生を楽しんでるなら、無理に結婚や子供を望むのは違うと思うんだ。今は犬を飼って、毎日散歩するのが何よりの楽しみさ」
Bさんの言葉からは、軽い寂しさを感じつつも、子供の選択を尊重する優しさが伝わってきます。「孫がいない」という現実を受け入れながらも、別の形で日々の喜びを見出しているのですね。
当初の失望から新たな喜びへ
孫を強く望んでいた方にとっては、子供が出産を選択しないと知った時のショックは大きいかもしれません。Cさん(68歳)は、二人の子供がいますが、どちらも子供を持つ予定はないそうです。
「最初は『なんで子供を産まないの?』って少しイライラしたわ」とCさん。「でも、子供たちと話して、彼らが仕事やパートナーとの生活に満足してるのを見たら、だんだん気持ちが変わってきたの。今は子供たちが時々遊びに来てくれるだけで十分。孫の代わりに、近所の子供たちに手作りのお菓子をあげたりして、ちょっとしたおばあちゃん気分を味わってるわ」
Cさんの体験は、最初の失望から、子供の幸せを優先する気持ちへの変化を示しています。そして、別の形で「おばあちゃん」としての喜びを見出している姿が印象的です。
変わりゆく時代と価値観
昔と比べて、今は「必ずしも孫がいるのが当たり前」という価値観が変わりつつあります。少子化や晩婚化、非婚化など、社会の流れも大きく変化してきました。
「子供の頃、祖母は『子や孫に囲まれてこそ幸せ』とよく言っていたわ」と、ある70代の方は話します。「でも今の時代、幸せの形は一つじゃないと思うようになったの。孫がいなくても、充実した人生は送れると実感してるわ」
確かに、「幸せ」の定義は人それぞれ。孫がいることが幸せな人もいれば、別の形で幸せを感じている人もいるのは自然なことですね。
孫がいない人が見つけている新たな喜び
では、孫がいない方々は、どのような形で心の充足を得ているのでしょうか?いくつかの例を見てみましょう。
自分自身の成長や挑戦を楽しむ
60代になって初めて大学院に入学したDさん。「若い頃は忙しくて諦めた勉強が、今になってこんなに楽しいとは思わなかった」と目を輝かせます。
「孫の世話をする代わりに自分の夢を追いかけられる。年齢を重ねても新しいことに挑戦できるのは素晴らしいことだと思うの」
Dさんのように、孫がいないことで生まれた時間や精神的余裕を活かして、長年温めてきた夢や目標に挑戦する方は少なくありません。語学、音楽、絵画、執筆など、新たな才能を開花させるのは何歳からでも遅くないのです。
社会とのつながりを深める
「ボランティア活動が私の生きがい」と話すのは、児童養護施設で週に一度、子供たちの学習支援をしているEさん(70歳)。
「最初は『孫がいないから、子供と関わりたい』という気持ちで始めたの。でも今は、施設の子供たちの成長を見るのが本当に楽しみなのよ。血のつながりがなくても、子供たちの『おばあちゃん』になれるって嬉しいものね」
Eさんのように、地域の子供たちとの交流を通じて「擬似的な祖父母体験」を楽しむ方も増えています。学校での読み聞かせボランティアや、子供向けの伝統文化教室など、世代間交流の場は意外と身近にあるものです。
夫婦や友人との絆を深める
「孫がいないからこそ、夫婦二人の時間を大切にできる」
そう語るのは、結婚40年目を迎えるFさん夫妻。「友人たちは孫の世話で忙しそうだけど、私たちは二人でコンサートに行ったり、温泉旅行を楽しんだり。若い頃以上に夫婦の会話が増えたわ」
また、同じ立場の友人との交流も大きな支えになるようです。「孫自慢大会にうんざりして、同じ境遇の友人と『孫なし会』を結成したの」と笑うGさん。「月に一度集まって、旅行や趣味の話で盛り上がるの。気兼ねなく話せる仲間がいるって素晴らしいわ」
こうした体験は、孫がいないことで別の人間関係が深まる可能性を示してくれます。
ペットとの暮らしを楽しむ
「犬や猫が『孫代わり』になっている」という声も少なくありません。Hさん(65歳)は、3年前から2匹の猫と暮らしています。
「毎朝、膝の上で喉を鳴らす猫を撫でながら『今日も元気でいてくれてありがとう』って話しかけるの。ペットはただそこにいるだけで、私の心を癒してくれるんです」
ペットとの絆は、人間関係とはまた違った心の充足をもたらしてくれるものです。
周囲の人との関わり方〜理解と配慮のために
孫がいる人といない人が、お互いに気持ちよく過ごすためには、どのような配慮が必要でしょうか?
話題の広げ方を工夫する
集まりの場で「孫の話題」一色になると、孫がいない人は会話に参加しづらくなります。そんな時は、「最近行った旅行」「観た映画」「読んだ本」など、誰もが参加できる話題に広げる配慮があると嬉しいものです。
孫がいる側も、「うちの孫がね…」と話し始める前に、相手の状況を思いやる余裕があると良いでしょう。
「大丈夫?」と決めつけない
「孫がいなくて寂しくない?」「子供に早く結婚して欲しいって思わない?」
こうした質問は、相手を傷つける可能性があります。「寂しいはず」「孫がいた方が幸せ」と決めつけず、まずは相手の気持ちや価値観を尊重する姿勢が大切です。
孫がいない方も、孫の話題に過剰に反応しすぎず、「それぞれの人生があるもの」と穏やかに受け止めることができれば理想的ですね。
自分らしい「孫のない人生」を見つけるために
最後に、孫がいない方々へのエールとして、いくつかのヒントをお伝えします。
自分の気持ちを正直に認める
「孫がいなくて寂しい」と感じても、「孫がいなくて自由で良い」と感じても、どちらも自然な感情です。まずは自分の気持ちを素直に認め、受け入れることから始めましょう。
「こう感じるべき」という思い込みではなく、「今、自分がどう感じているか」に耳を傾けることが大切です。
新しい喜びを探す勇気を持つ
孫という喜びがないなら、別の形の喜びを見つける—そんな前向きな姿勢が、人生を豊かにします。
「ずっとやりたかったけど躊躇していたこと」はありませんか?語学、絵画、音楽、旅行、ボランティア…。始めるのに遅すぎることはありません。
「初めての語学教室、緊張したけど行ってみたら楽しくて。今は外国の方と片言でも会話できる喜びを感じています」と、70代で英会話を始めた方は語ります。
つながりを大切にする
孫がいなくても、人とのつながりは様々な形で築けます。友人、地域の子供たち、ペット…。心を開いて関わる相手がいることは、人生を豊かにしてくれます。
「私は『地域のおばあちゃん』として、近所の子どもたちに昔遊びを教えているの。一緒に遊ぶと、私まで子どもに戻ったみたい」と笑顔で話すIさん。血縁を超えた絆も、心を温かくしてくれるものです。
自分の人生に「ありがとう」と言う
誰しも一度きりの人生。孫がいてもいなくても、これまでの人生に感謝の気持ちを持ち、これからの日々を大切に生きることが何より重要ではないでしょうか。
「若い頃は『子供を産まなかった選択は間違いだったかも』と悩んだこともあった」と語るJさん。「でも今は違うわ。私の人生は私のもの。旅と友人と猫と、私なりの幸せがここにあるの」
孫がいない人生も、十分に豊かで実りあるもの。その中で自分なりの喜びや意味を見つけ、日々を味わい尽くすことができれば、それは素晴らしい人生と言えるのではないでしょうか。
そして何より、「孫がいる・いない」という一つの要素で人生の豊かさが決まるわけではありません。多様な生き方、多様な幸せがあっていい—そんな社会になっていくといいですね。
あなたの人生は、あなただけのかけがえのないストーリー。今日もあなたらしく、心豊かな一日を過ごしてください。